今月の読者報告〜9月〜

書籍
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今月読んだ本
  • 朝比奈さんの弁当食べたい(羊思尚生)
  • écriture 新人作家・杉浦李奈の推論 Ⅵ 見立て殺人は芥川(松岡圭祐)
  • 三千円の使いかた(原田ひ香)

朝比奈さんの弁当食べたい

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écriture 新人作家・杉浦李奈の推論 Ⅵ 見立て殺人は芥川

都内で改造ガスガンを使った殺人事件が発生。被害者のふたりのうちひとりの胸の上に芥川龍之介の『桃太郎』が小冊子風に綴じられて置かれていた。これまで文学に関わる難事件を解決してきた李奈(りな)は、刑事の要請で今回も捜査に協力することに。一方で本業の小説執筆ははかばかしくなかった。加えて母の愛美が三重から上京。気持ちが落ち着かずにいた。謎めいた事件と停滞気味の自分。李奈はこの2つの問題を乗り越えられるか⁉︎

出典:『écriture 新人作家・杉浦李奈の推論 Ⅵ』裏表紙

芥川賞・直木賞受賞作家である岩崎翔吾を巡る事件を始め、数々の事件を解決に導いてきた主人公・李奈。その実績から、今では警察から「杉浦先生」と呼ばれるほどに広く認知されている。
一方、李奈は大きな問題を抱えていた。1つはスランプによる新刊執筆の停滞。もう1つは、常日頃李奈を実家へ帰らせたがっていた母・愛美の来訪。思う様に評価されず伸び悩む本業。そんな本業を認めようとしない母。事件解決の活躍とは相反する評価に李奈は悩んでいた。
そんな中、改造ガスガンを使った殺人事件が都内住宅地で発生。被害者の1人の元に芥川龍之介の『桃太郎』が残されており、もう1人の被害者は猿顔の男性、そして更に近隣の飼い犬とスズメも同様にガスガンで銃撃されていた。『桃太郎』と酷似した事件の調査のため、警察は李奈に協力を要請。戸惑いながらも仕事と私事の気分転換のためと思い、李奈は調査に同行することになる。
残された『桃太郎』の意味。食い違う被害者の人物像。「愛友心望」の実態。見立て殺人の真相、そして李奈のスランプと親子問題はどうなるのか・・・。

前作『Ⅴ』では、叙述トリックのひとつである「信用できない語り手」を副題とし、そのまま作品のテーマとして読者に臨場感と緊張感を与えた。
そして『Ⅵ』の副題は「見立て殺人は芥川」。その名の通り「見たて殺人」という推理小説のテーマに加え、シリーズお馴染みの作家「芥川龍之介」がそのままタイトルに有る辺り、今回も実に『écriture』シリーズらしい作品といえる。
『桃太郎』をはじめとした文学作品の広い知識と奥深い考察も健在だ。

しかし、シリーズも6作目ともなればお馴染みなところだけではない。これまで本業が小説家っぽい描写がほぼ無かったことに対し、今作はやたらと執筆描写が克明に描かれている。『Ⅲ〜Ⅴ』の感想で語ったが、李奈の文筆業がこのままどうなってしまうのか、読者の1人としても心配であり注目もしていた。そんな中、新刊執筆で1度は不調となるもやがて良い方向へ好転するしていく。これまで遭遇した事件は、成長したのは内面だけではなく作家としても良い影響を与えていたのである。

更に、今作は李奈の兄・航輝が語るだけの存在だった母・愛美がついに作中に登場した。これまでも李奈に実家に帰るように言っていた母が李奈と邂逅、お互い相容れぬ気持ちをぶつけ合う。李奈は母を思慮が浅く、東京で夢を追う自分に理解の無いと思う一方、母・愛美は物騒な事件に巻き込まれる一人暮らしの娘を案じている。
何歳になっても親は子を心配するものだし、その思いを子は分からないものだ。そして子が思っているよりも、親は子を理解しているものである。
そんな2人がわかり合うことができるのか、事件の行方と同じくこちらも見逃せない。

キャラクターの葛藤と成長。「親子」の在り方。いつも『écriture』らしさを残しつつ、これまで気になっていた要素を上手く補完してくれた素晴らしいエピソードだった。未定である続編の情報に注視していきたい。

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三千円の使いかた

就職して理想の一人暮らしをはじめた美帆(貯金三十万)。結婚前は証券会社勤務だった姉・真帆(貯金六百万)。習い事に熱心で向上心の高い母・智子(貯金百万弱)。そして一千万円を貯めた祖母・琴子。御厨(みくりや)家の女性たちは人生の節目とピンチを乗り越えるため、お金をどう貯めて、どう使うのか?
〈解説〉垣谷美雨

出典:文庫版『三千円の使い方』裏表紙

お金と節約に関する実用書風短編小説。都内に住むとある一家の女性4人(長女・次女・母・祖母の)が、自身の考える生活と将来、そしてお金の在り方について向き合っていく姿を描くオムニバス形式の物語である。

近年、老後二千万円問題やコロナショックの影響により、これからの生活に不安を感じる人が増えていった。その一方で、貯金や投資などによる資産形成への関心が世間では高まっている。その影響もあり、近年ではYouTuberや芸能人といった有名人の書くお金の基礎本がベストセラーを記録している。
本書は前述した通り「小説」ではあるものの、ジャンルとしては「お金の本」として扱っていいだろう。キャラクターを通し、直ぐにでも出来る具体的な貯金方法などを学ぶことも出来るため、小説ではあるが実用書としての面も持っている。

ただ、やはりビジネス書としての「お金の本」が数多くある中、「小説」としての形式を取る本書は結構異質な存在である。実際、ビジネス街としての「お金の本」の方が、情報量は多いし実用性も高い。ならば本書が劣った本かと言われれば、決してそんなことはない。むしろ本書は、所謂「経済小説」と同じく、読む者に学びと気付きを与える「新しいジャンルの小説」なのである。

本書の最も注目すべき点は主要人物4人のキャラクター性にある。とある理由で戸建一軒家の購入を目指す次女・美帆。娘の将来と夫婦の老後資金確保に満身する長女・真帆。病気を機に将来と自分の在り方を見直し貯金を始める母・。夫の遺した1千万円に極力頼らず自力で余裕資金を稼ぎたい祖母・。彼女たちは皆、特別な境遇に立っているわけではない。4人ともそれぞれの年代が持つであろう普遍的な悩みを持った「普通な」女性達である。その悩みが普遍的であるが故、読者は彼女達に馴染み深さと親しみが生まれるのである。例えば、作中で彼女たちの行う節約はどれも実用的な内容も無理がない。母が始めた「レシートを冷蔵庫に貼る」という方法はまさにそれで、方法も簡単だし説明も理に適っているので、読んだあとつい試したくなる。

このように、キャラクターとの共感性の高さと実用性の高さが魅力な一冊となっている。同じ女性、特に各キャラと近い年代の方なら、更に深い共感を得ることが出来るだろう。

(男性である僕が思う女性のイメージよるものが大きいので間違っていたらごめんなさい)

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まとめ

9月となり、季節は秋を迎えた。秋ともなれば気候が安定し夜も長くなるため、静かに読書や作業に思いっきり打ち込むことができる。
にも関わらず、日中の気温は相変わらず高い。日本の四季は一体どこに行ってしまったのかと言いたくなるほどに季節がぐちゃぐちゃになっている。

そんな中、今月も仕事と育児の間を縫って読書時間を作ることができた。具体的には、平日は仕事のちょっとした休憩時間の数分間と、休日は息子が昼寝をした僅か1〜2時間程度だが。
一冊読み切るには有る程度の日数を要する事になるが、スマホを眺めて時間を無駄にするより遥かに有意義だと言えるだろう。
今後もこの習慣を続けていきたいと思う。

今月は以上、お疲れ様でした。

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