超常×探偵による新感覚ミステリ『medium 霊媒探偵城塚翡翠』の感想

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相沢沙呼=著『medium 霊媒探偵城塚翡翠』(文庫版)を読んだ。

2019年に刊行された本作は、第20回本格ミステリ大賞をはじめとした5つの大賞で五冠を獲得。
昨年2022年には続編第3巻の発刊に止まらず、『月刊アフタヌーン』にてコミカライズ版の連載、更にはテレビドラマ版が日本テレビ系列にて放送されている。
どう見たって大成功。ノリに乗っているようにしか見えない。(因みに漫画・ドラマは未読・未視聴)

そんな本作の感想と紹介を以下にまとめてみた。

あらすじ

死者が視える霊媒・城塚翡翠と、推理作家・香月史郎。心霊と論理を組み合わせ真実を導き出す二人は、世間を騒がす連続死体遺棄事件に立ち向かう。証拠を残さない連続殺人鬼に辿り着けるのはもはや翡翠の持つ超常の力だけ。だがその魔手は彼女へと迫り――。ミステリランキング5冠、最驚かつ最叫の傑作!

出典:medium 霊媒探偵城塚翡翠|講談社文庫(http://kodanshabunko.com/medium/)

超常×探偵の新鮮ミステリ

本作は所謂「倒叙ミステリ」ではある。しかしながら、『古畑任三郎』や『刑事コロンボ』のように冒頭で「犯行の全容」が語られるパターンの作品ではない。あくまでも読み手が分かるのは「犯人」のみであり、その情報はヒロイン・城塚翡翠の霊媒能力によってもたらされる。しかし、犯人が分かったからといって「霊視で犯人を特定した」という理由では何の根拠にもならない。そこで、語り手・香月史郎が翡翠から得た「答え」を基に、犯行の辻褄を合わせていくのが本作の流れとなる。

霊視や降霊、霊との感応といった、SF作品で扱われる様な超常現象にも条件が設定されている。例えば、霊視は対象が亡くなった現場でなくては行使できない、という条件がある。また、非業の死を遂げた霊を対象に降霊を行使するとしばらく悪夢に苛まれるリスクがある。この様に、推理の過程をすっ飛ばせるはずの最強能力も必ずしも万能ではない事がわかる。しかしながら、その万能ではないところが、逆に嘘っぽい能力へリアリティを与えている。そのせいか、スピリチュアル全開なSF描写にも不思議と違和感を感じない。むしろ僕が認知していないだけで、霊的な超常が現実に存在している、かの様に思わされる。

超常によって犯人を特定してからが本作の真骨頂だ。本来なら状況を基に犯人を特定するはずが、本作の場合は先に犯人を特定している。既に結果が分かっている状態から、如何にして犯行までの道筋を作っていくのか。この手法がまた新鮮で面白い。

あざとかわいい城塚翡翠のイチャラブ展開

本書を見かけた人なら、誰しも表紙に描かれた美しい女性に目を奪われたことだろう。細く綺麗な線。寒色系なのに眩しさを感じさせる色使い。どこか儚げで、神秘的で、扇情的なその女性は、一度目にしたら忘れることができない。それほどに人の心を引き寄せる美しいイラストだと言える。
その表紙の女性こそ、本作のヒロインでもあり作品タイトルにもなっている「城塚翡翠」なのである。
表紙の神秘的な雰囲気に加え肩書きが「霊媒探偵」となれば、そのキャラクターもそれ相応に神秘的な性格に違いない。本書を読み始める前はその様に想像していた。

しかし、その想像はいい意味で見事に打ち砕かれる。
まさかあの神秘的な表紙の女性が世間知らずのドジっ娘キャラだったとは。

霊媒師でありながら、過去に疎まれていた影響で自身の能力に自信が持てずにいる。そんな能力を誰かのために使いたいと思いながらも、万能ではないが故に叶えられず苦しむ。
それでも、能力を得た意味を探すため、香月と共に事件に挑む。その姿がなんともいじらしい。

相棒である香月も、最初こそ翡翠の霊媒能力に不信の念を抱いていたが、共に事件に挑む中で彼女の魅力に惹かれていく。話が進むにつれて、それはもう甘々な関係へと進展する。さながらライトノベルを読んでるかと思わされるほどにイチャイチャし始めるものだからもう見ていられない。

そんな2人が最後にはどこまで行ってしまうのか。2人の展開は思わずミステリ小説であることを忘れてしまうほどに見逃せない。

衝撃の最終章【ネタバレ注意!】

以下ネタバレ有り!!!!


















完全にしてやられた。

まさか「信用できない語り手」で、香月史郎が犯人で、翡翠がエセ霊媒師だったとは。

ここだけの話、実は1章から3章まで少し退屈気味で、かなり遅いペースで読み進めていた。

本当にミステリ大賞5冠達成したのかと常に疑問がよぎっていたし、まさかドラマ化されたのはあの甘ったるいイチャラブが評価されたからなのかと思い、日本の映像業界に対して不安の念が湧き上がっていた。

それらの評価は最終章で見事に裏返される。

最終章では香月と翡翠の正体が明かされ、香月は章の間で綴られていた連続死体遺棄事件の犯人・鶴岡文樹と同一人物だったこと、翡翠は霊媒師を名乗った奇術師であった事がそれぞれ明かされる。

実は翡翠にはそもそも霊感がなく、霊媒能力の類は一切持っていない。これまでの犯人の特定は霊視によるものではなく、瞬間的な観察力と推理力で導き出したものであり、人身を巧みに騙すことであたかも霊媒能力を行使した様に思わせていたのである。犯人の香月はもちろん、これまで物語を読み進めていた読み手までもが見事に騙されてしまった訳だ。

奇術師である翡翠は、読み手を含めた騙された香月に向けて霊媒能力のタネ明かしをすると共に、どの様にして犯人を導きたしたかの答え合わせを繰り広げることになる。完全にトンデモ能力による事件解決だと思っていた分、一切の疑問の余地のない論理的推理に対して理解が追いつけないでいた。

更には、翡翠のキャラクターも演じられたものだった事が明かされる。奇術師である彼女は可憐な見た目とあざとい仕草によって人心を掌握していたのだ。あざとかわいいと思っていた僕は完全に弄ばれた気分になった。
極め付けは翡翠のこの台詞である。

「そうですよう。あんな、友達いないアピールをするうざいメンヘラ女子なんて、この世に存在するわけないじゃないですか。いや、いるかもしれないですけど、わたしみたいに可愛くて可憐な子がぼっちのはずないでしょう?」

出典:著=相沢沙呼  medium 霊媒探偵城塚翡翠(文庫版)|419ページ

現実が残酷過ぎる。

最終章を見たあとではや香月の独白や表紙の印象が大きく変わってくる。これはミステリ大賞5冠達成もドラマ版放送も納得な作品である。




















まとめ

当記事では『medium 霊媒探偵城塚翡翠』のあらすじと3つの見所をまとめてみた。

中盤までは分厚いラノベ程度にしか思えなかったのが嘘のように気持ちのいい読後感だった。ドラマ化もされるくらい売れてると聞いて逆張りを発動していたが、これなら評価が高いのも納得だ。
税込990円を払って買う価値は十分あった。

『medium 霊媒探偵城塚翡翠』の見所

・超常×探偵の新鮮ミステリ
・あざとかわいい城塚翡翠のイチャラブ展開
・衝撃の最終章【ネタバレ注意!】

新感覚のミステリを楽しみたい方にオススメな1冊だ。

medium 霊媒探偵城塚翡翠 (講談社文庫)

死者が視える霊媒・城塚翡翠と、推理作家・香月史郎。心霊と論理を組み合わせ真実を導き出す二人は、世間を騒がす連続死体遺棄事件に立ち向かう。証拠を残さない連続殺人鬼に辿り着けるのはもはや翡翠の持つ超常の力だけ。だがその魔手は彼女へと迫り――。ミステリランキング5冠、最驚かつ最叫の傑作!

Amazon.co.jp より

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