『元彼の遺言状』(宝島社文庫)の感想

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一作品読み終えたので今回も読書感想文を投稿する。
今回読んだのはこちら↓

新川帆立=著『元彼の遺言状』(宝島社文庫)

『元彼の遺言状』ってどんな作品?

『元彼の遺言状』は、『このミステリーがすごい!』(以下、『このミス』)大賞受賞作品である。『このミス』大賞は、宝島社ほか2社が創設したミステリー小説賞で、「エンターテイメントを第一義の目的とした広義のミステリー」を募集対象として掲げている。2023年現在で21回実施されており、『元彼の遺言状』は2020年実施の第19回大賞作品である。
ちなみに2021年の第20回大賞作品は『特許やぶりの女王 弁理士・大鳳未来』、2022年の第21回大賞作品は『名探偵のままでいて』となっている。

また、『このミス』大賞作品といえば、これまで多くの作品がドラマ・映画等の映像化に恵まれてきている。そんな中、本書も例に漏れずテレビドラマ化まで発展、フジテレビ月9枠で2022年4月から6月まで放送された。出演俳優は主人公・剣持麗子を綾瀬はるかさんが担当、依頼人の篠田を大泉洋さんが担当、そのほか錚々たる顔ぶれを揃えた気合いの入った作品となっている。

現在、本書の続巻として『倒産続きの彼女』と『剣持麗子のワンナイト推理』が発刊されている。
著者の新川帆立さんは本書でデビューを果たした新人作家でありながら、司法試験に合格した歴とした弁護士であり、麻雀プロテストを通過したプロ雀士でもあり。

『このミステリーがすごい!』大賞
出版社 宝島社 『このミステリーがすごい!』大賞の公式サイト。募集要項・最新進行情報・過去の受賞作と...

どんな物語?

「僕の全財産は、僕を殺した犯人に譲る。」元彼の森川栄治が残した奇妙な遺言状に導かれ、弁護士の剣持麗子は「犯人選考会」に代理人として参加することになった。数百億円ともいわれる遺産の分前を勝ち取るべく、麗子は自らの依頼人を犯人に仕立て上げようと奔走する。ところが、件の遺言状が保管されていた金庫が盗まれ、さらには栄治の顧問弁護士が何者かによって殺害され・・・・・・。

出典:新川帆立.『元彼の遺言状』.宝島社.宝島文庫.2021.本書背表紙より

『元彼の遺言状』の感想は?

なんと言っても主人公・麗子のキャラが強烈だ。
冒頭いきなり婚約指輪の価格を理由に彼氏と別れるわ、ボーナスの額を理由に上司2人と対立し職場を飛び出すわ、最早「気が強い」という形容詞だけ収まり切らない。しかも二千万近くの年収を得ており、普通のサラリーマンには立っているステージが想像できないレベルの稼ぎを得ており、更にそれ以上の金を求めようとする守銭奴であり、もうキャラの設定が濃すぎる。
『特許やぶりの女王 弁理士・大鳳未来』を読んだ時も思ったが、もしかすると女性主人公の作品が今のトレンドなのかと思えてくる。もしくは『このミス』大賞選考委員にそういった嗜好の方が多いからか。そう考えずにはいられない。実際、「気が強い・仕事ができる・稼いでいる」といった要素を持つ女性主人公は、恐らく多くの同性の読者から支持を得ているのだろうと思う。発売当初がコロナ禍の真っ只中ということもあり、剣持麗子のようなキャラクターが同性の読者に強い元気と勇気を与え、背中を押してくれたのだろう。そう考えると、本書に与えられた『このミス』大賞は時代によって選ばれたものなのだとも言える。
ただ、ここまでクセの強いキャラともなれば当然苦手に思う読書もいるだろう。いくら時代や流行りによって支持を得たとしても、さすがに万人向けとは言い難い。未読の方はうっかり身を滅ぼしてしまう前にじっくりと精査して購読して頂きたい。

それにしても本書のエンタメ性の高さはぶっ飛んでいると思った。そもそも導入からぶっ飛んでおり

・亡くなった主人公の元彼による「殺した犯人に全財産を譲る」という旨のイカれた遺言状が見つかる
 ↓
・犯人を探すための犯人選考会が始まる
 ↓
・「死因であるインフルエンザを移しちゃったかも・・・」と言う元彼友人の代理人として主人公が選考会に名乗りを上げる

ここまでが1章までの流れとなる。その後、主人公を含めた元カノたちを集めた別荘地引渡しが行われたり、遺言状の入った金庫が盗まれたり、元彼の顧問弁護士が突然亡くなったりと、立て続けにイベントを発生させながら物語は進行する。

冗談みたいな遺言に振り回される遺族たちと、不謹慎と思いつつもワンチャンスを狙う主人公、そして腹に一物抱えてそうな相続人たち。物語のテンポも良く、さながらバラエティ映画のようなノリが、読んでいて気持ちがいい。真っ当なリーガルサスペンス物と見せかけておいて、いい意味で読書の期待を裏切るとんでもエンタメ特化のストーリー。正に「エンターテイメントを第一義の目的とした広義のミステリー」とは斯くあるべき作品である。

また、本書はリーガルサスペンス物の装いでありながら難しい法律が出ない点も好感が持てる。
弁護士が主人公ともなれば
「⚪︎法 第××条△項ドウノコウノ・・・」
といった具合でまくしし立てるが定石だと思っていたが、これがビックリするくらい法律マウンティングが無い。むしろ法律や論理云々のような知性的な訴えよりも、義理や人情のような人間的な訴えのほうが圧倒的に多い。特に、真犯人の犯行理由と遺言を残した本当の理由は、どちらもとても人間味が深い。こういった人間味の深さが、リアリストでお金への執着の強い主人公・麗子と対比となることで、メリハリの効いたバランス良い作品になったのだろう。事務所雇い主との対立と和解によって人間的成長が際立っていたのも対比による効果に違いない。

いずれにせよ、分かりやすさに特化させると同時に、キャラクターの成長を際立たせる見事な作り込みの作品であった。

まとめ

  • 第19回『このミステリーがすごい』大賞受賞作品
  • 主人公・剣持麗子のクセが強過ぎる
  • 物語が分かりやすくてテンポの良い超大衆向け作品

ちなみに本作のドラマ版はストーリーが原作とかなり異なってるそうな。ドラマ版公式HPでざっとあらすじ追ってみたけど2話以降から明らかに展開が変わってる。というかちょい役の篠田なんて大泉洋さんが演じるだけあって完全にメインキャラになってるし。僕は未視聴なので定かではないが、恐らく放送当時は賛否が大きく分かれていたことだろう。

元彼の遺言状 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ) 文庫 新川 帆立  (著)

「僕の全財産は、僕を殺した犯人に譲る」。元彼の森川栄治が残した奇妙な遺言状に導かれ、
弁護士の剣持麗子は「犯人選考会」に代理人として参加することになった。
数百億円ともいわれる遺産の分け前を勝ち取るべく、麗子は自らの依頼人を犯人に仕立て上げようと奔走する。
ところが、件の遺書が保管されていた金庫が盗まれ、さらには栄治の顧問弁護士が何者かによって殺害され……。

Amazon.co.jp より

以上、ありがとうございました。

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