『特許やぶりの女王 弁理士・大鳳未来』の感想

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南原詠・著『特許やぶりの女王 弁理士・大鳳未来』を読んでみた。

なんでも第20回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作とのこと。
過去の受賞作品には『チーム・バチスタの栄光』や『スマホを落としただけなのに』など、映像作品の名前としても聞いたことがある。最近では、第19回大賞受賞作品である『元彼の遺言状』がテレビドラマとして放映されており、『このミステリーがすごい!』大賞が如何に界隈で注文されているかが窺える。

そんな名誉ある賞の最新入賞作品の感想をいつもの様にまとめてみた。

ざっくりとした概要

特許やぶりの女王 弁理士・大鳳未来|南原 詠|宝島社
2022年第20回『このミステリーがすごい!』大賞・大賞受賞作!南原 詠『特許やぶりの女王 弁理士・...

元パテント・トロールの大鳳未来おおとり みらいは、防衛専門の特許法律事務所の弁理士として、今日も各地を駆け回っていた。
三重県で薄型テレビの機能を巡る権利侵害案件に駆けつけた直後、未来の元に東京で新たな依頼が飛び込む。休む間も無く現場に駆けつけるとそこでは、映像技術に関する特許権侵害により、大人気Vtuber・天ノ川トリィが活動の危機に陥っていた。
ライセンスを持つ企業の不十分な警告。出所の怪しいトリィの撮影機材。そして裏に存在する特許権所有企業の思惑・・・。
クライアントとトリィの優れた才能を守るため、分の悪い戦いに未来は挑む。

リーガルサスペンスとしての新たな形

なんといっても最大の特徴は、主人公が「弁理士」の1点にある。
そもそも聞き馴染みがなさすぎて、最初は造語か何かと思っていた弁理士という職種。本書のプロローグを読んでようやく理解。
弁理士とは知的財産に関するスペシャリストのことであり、知的財産侵害による揉め事の間に入る代理人にあたる。かなり雑に解説すると、要は特許権とか専門の弁護士だ。

本作の主人公である大鳳未来も弁理士であるが、元々は特許権を乱用して賠償金をむしり取っていた「パテント・トロール」である経歴を持つ。そんな経歴でだったからなのか、性格は強気でしっかり者の「強キャラ」である。彼女のセリフ全てが自信に満ちており、登場する男性キャラにも一切物怖じしない。また、協力者である男性キャラへの扱いは辛辣で容赦がなく、ただの気が強い女性というだけでは収まりき強キャラ味を感じる。

最近やたらと女性主人公版リーガルサスペンスが流行っているが、『特許やぶりの女王 弁理士・大鳳未来』は決して流行りの量産型ではない。他で見ない新しいテーマ性と活き活きとしたキャラクター性を持つ大賞受賞も納得な1冊である。

前衛的で旬なテーマ

「Vtuber」や「5G」などのトレンドをテーマとして取り入れているのが面白い。

Vtuberといえば、2017年ごろの「キズナアイ」を始めとしたVtuber四天王たちの台頭、その後数々のVtuberの活躍により、現在までのYouTubeコンテンツの基盤を作り上げてきた。現在ではテレビや雑誌でも取り上げられるほどに市民権を得ている。最近だと「壱百満天原サロメ」のデビュー14日でチャンネル登録者数100万人達成の衝撃が記憶に新しいだろう。それだけ多くの人たちから注目されているコンテンツだと言えるだろう。

そして、今作のクライアントとして登場するのもVtuberである。
事務所の規模とか事務所名で、某横三角形の事務所がモデルと察してしまう人もいるだろう。「このミステリーがすごい!」大賞作品にあの事務所をモデルとしたVtuberが出るとは、Vtuberコンテンツも来るとこまで来た感じがする。

そんなVtuberであるクライアントの「天ノ川トリィ」が特許侵害による警告を受けたことで活動休止に追い込まれる、というのが今作のメインストーリーである。そして、トリィは緻密な動きと表情をキャラクターに投影させるため、高精度なレーザースキャン技術と「5G」による高速無線通信を有する撮影機材を用いている。この機材の技術が特許侵害にあたり、警告を受けることになる。
実際に技術としても存在しそうだし、こんな感じの事件がネットニュースに取り上げられそうで何とも言えなくなる。
ともかく、実際の「有りそう」な事件なため、殺人や窃盗による事件よりも逆にリアルで臨場感がある。

やはりVtuberのスキャンダルは見ていて面白いものだ。

分かりやさとシンプルな様式

特許を扱った物語となると、どうしても小難しくて難解な印象を持ってしまう。しかも単行本のミステリー小説ともなれば、僕のようなライトな読者は身構えてしまうものだ。
しかし実際はそんなことはなく、ノリと勢いだけでなんとなく理解できた。

そもそも物語の構造上、弁理士からクライアントに説明を受ける場面が多く、小難しい用語については台詞だけである程度補完可能だ。しかもご丁寧に特許権侵害の対策を3ステップで解説してくれている。

なによりも作品構造が「強い女性が難事件に敢然と立ち向かう」となっておりシンプルでわかりやすい。
主人公である正義の凄腕弁理士とクセの強い依頼人。ザ・オタク然とした協力者たち。そして腹に一物抱えた悪の特許権利者。そんなキャラクターたちが織りなす一発逆転ありの勧善懲悪物語こそ今作の基本構造である。
この様式が求められて、長く愛されている証拠は、時代劇が今でも廃れない事で証明されている。みんなこの様式が好きだし安心するのだ。

まとめ

真新しく旬なテーマ、個性の強いキャラクター、大衆的なわかりやすさ、そしてミステリー小説らしいラスト怒涛の謎解き。
これなら初めて読むミステリー作品として選んでも申し分ない。そのくらいスッキリとまとまっており、年齢・性別に関わらず万人に受け入れられる素晴らしい1冊だろう。流石は『このミステリーがすごい!』大賞作品。

既に次作である『ストロベリー戦争弁理士・大鳳未来』が刊行されているので、次はそちらを読んでみたい。

以上、ありがとうございました。

特許やぶりの女王 弁理士・大鳳未来 (『このミス』大賞シリーズ) 単行本 

第20回『このミステリーがすごい! 』大賞受賞作は、現役弁理士が描く企業ミステリーです! 特許権をタテに企業から巨額の賠償金をせしめていた凄腕の女性弁理士・大鳳未来が、「特許侵害を警告された企業を守る」ことを専門とする特許法律事務所を立ち上げた。今回のクライアントは、映像技術の特許権侵害を警告され活動停止を迫られる人気VTuber・天ノ川トリィ。未来はさまざまな企業の思惑が絡んでいることに気付き、そして、いちかばちかの秘策に……!

Amazon.co.jp より

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