『écriture 新人作家・杉浦李奈の推論Ⅲ〜Ⅴ』をレビュー

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著者・松岡圭祐さんのミステリ小説『écriture 新人作家・杉浦李奈の推論』に、ここ最近どハマりしている。

6月に『Ⅰ』を、7月『Ⅱ』、そして今月は『Ⅲ』『Ⅳ』『Ⅴ』を一気読みし、遂に8月25日に発売したばかりの新作『écriture 新人作家・杉浦李奈の推論VI 見立て殺人は芥川』を準備が整ったとう訳だ。

今回は記憶の新しい内に、最近読み終えたばかりの『Ⅲ〜Ⅴ』の感想を記事へまとめてみた。
『Ⅰ〜Ⅱ』は過去投稿した読書報告にて感想を記事にしているので、よろしければそちらもどうぞ。

écriture 新人作家・杉浦李奈の推論 III クローズド・サークル

彗星のごとく出現した作家、櫻木さくらぎ沙友理さゆり。刊行された小説2作は、いずれも100万部を突破、日本じゅうがブームに沸いた。彼女を発掘した出版社が新人作家の募集を始めることを知ったラノベ作家の杉浦すぎうら李奈りなは、親しい同業者の那覇なは優佳ゆかとともに選考に参加。晴れて合格となった2人は、祝賀会を兼ねた説明会のために瀬戸内海にある離島に招かれるが・・・・・・。そこはかの有名な海外推理小説の舞台のような“絶海の孤島”だった。

出典:『écriture 新人作家・杉浦李奈の推論 Ⅲ』裏表紙

新進気鋭の売れっ子ミリオンセラー作家・櫻木沙友理に、出版業界のみならず多くの読者が湧き上がっていた。そんな売れっ子作家を世に出した爽籟社編集担当・榎島は、次の売れっ子作家を探すべく、新たな新人作家を募集、そこで選考された主人公・杉浦李奈をはじめてとした作家8名と櫻木沙友理を離島に集めた。そして、そんな閉ざされた島で事件は起こった・・・。

爆速ペースで刊行される「écriture」シリーズの第3作目は、タイトルの通り「クローズド・サークル」を題材としており、作中ではさながら『そして誰もいなくなった』然とした事件が巻き起こる。
閉ざされた環境下、犯人から出される課題の意図は何なのか。次は誰が襲われるのか。そして、1人奇行に走る「櫻木沙友理」の目的は何なのか?
迫り来る緊迫感と先の見えない展開に、読むものは誰しも引き込まれていく事だろう。

タイトルにそのまま「クローズド・サークル」と書かれているだけあり、恐らくは『そして誰もいなくなった』的な展開なのだろう。僕はぼんやりと物語の展開を想像していた。
しかし前作『Ⅱ』犯人が意外な人物であったことを考えると、今作も一筋縄ではいかない意外な結末なののではないか。そして既存のキャラに何かが起こるのではないか。
と、多少愛着を覚えた人物たちに対して不安を覚えてしまう。まして絶海の孤島で起こる事件とあれば尚更だ。
だが読み進めていくうちに、登場する作家たちから犯人の凶悪な人物像が語られて行く。こうなると僕はもう、主人公の李奈、そして友人の優佳がどうなってしまうのか、もう気になって読む手が止まらなくない。

今作の1番の魅力は「先の読めない緊張感」にあると思う。その緊張をより強く張り詰めた要因こそ「人物の設定と印象付け」である。
特に櫻木沙友理の見せ方が素晴らしい。基本的に語り手である主人公・李奈は櫻木沙友理と面識が無く、直接・間接的な会話の中で彼女の人となりを知ることが出来ない。しかし、第三者によって語られる情報のほか、インタビュー記事の内容、壮絶な展開へと転調する彼女の著者2冊によって、断片的ではあるが、なんとなく櫻木沙友理の人物像が徐々に見えてくる。それらの断片的情報はどれも良い印象のものではなく、結果として読み手は、櫻木沙友理に対して「正体不明な怪しいキャラ」といった印象を持つようになる。
こういった想像による人物の印象付けが、王道サスペンスさながらの状況に上手く作用していたのが良かった。

叙述トリックによる意外な結末に大満足なエピソードだった。機会があれば、各キャラのセリフに注視しながらもう一度読み直してみたいと思う。

あと百合カプ厨視点で見ても今作は大満足だった。

ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論 III クローズド・サークル (角川文庫)

無人島に9人の小説家――
彗星のごとく出現した作家、櫻木沙友理。刊行された小説2作は、いずれも100万部を突破、日本じゅうがブームに沸いた。彼女を発掘した出版社が新人作家の募集を始めることを知ったラノベ作家の杉浦李奈は、親しい同業者の那覇優佳とともに選考に参加。晴れて合格となった2人は、祝賀会を兼ねた説明会のために瀬戸内海にある離島に招かれるが……。そこはかの有名な海外推理小説の舞台のような、“絶海の孤島”だった。

Amazon.co.jp より

Amazon.co.jp: ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論 III クローズド・サークル (角川文庫) 電子書籍: 松岡 圭祐: Kindleストア
Amazon.co.jp: ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論 III クローズド・サークル...

écriture 新人作家・杉浦李奈の推論 Ⅳ シンデレラはどこに

中堅・グライト出版が大々的に売りだした新人作家RENレン。刊行した作品が女子中高生を中心に次々ベストセラーになるが、既刊からのパクり問題が浮上しブームは突如として失速。出版界の事件を解決してきた李奈りなには、被害作家からの相談が寄せられる。自著からの盗作も判明し、頭を悩ませる中、別の難題も抱えていた。「シンデレラの原典を探れ」という不可解なメールが届いたのだ。送り主の意図、そしてその正体は一体・・・・・・⁉︎

出典:『écriture 新人作家・杉浦李奈の推論 Ⅳ』裏表紙

過去3度に渡り、出版界の事件を解決してきた売れない新人作家・李奈。その活躍は出版業界内にも知れ渡り、今では李奈を頼る作家や編集者も少なくはない。李奈自身、不本意ながらも“トラブルを抱えた作家の駆け込み寺”の様な存在となっていた。
今回、李奈に元に、「パクリ問題で話題となっている人気新人作家・RENにパクられた」という相談が複数寄せられる。そのパクられは数人の相談者だけの問題はなく、業界内で数多くの被害が出ており、ほどなくして李奈の作品もパクられ被害に合う。法的にも対応が難しい状況のなか、李奈はもう1つ大きな問題を抱えていた。その問題とは、佐田千重子と名乗る人物からの「シンデレラの起源を探れ」という命令と、他言すれば近しい人物に危害を加える脅迫文である。
自著の盗作問題、ピリつく作家界隈、真意不明の謎の脅迫文、難解なシンデレラのルーツ。
物語はどこへ向かうのか・・・。

国籍問わず、多くの人から愛されている童話『シンデレラ』。不幸な少女・シンデレラが魔法の力で一発逆転してハッピーエンドの話だ。そのタイトルで先ず思い浮かぶディズニー版の作品だが、グリム童話版では内容が異なる部分もある。特に有名である「ガラスの靴を履くために義姉がつま先を切り落とす」という内容は、ネット上でもよくホラーエピソードとして取り沙汰されている。
この様に、シンデレラには伝承した地域や世に出た媒体によって、大筋は同じだが結末や設定に違いがある。そんなシンデレラの物語は一体どこから伝わって来たのか?というのが、今作『Ⅳ』の1つの大筋である。

そして今回も「écriture」シリーズお馴染みである「盗作・剽窃」をテーマとして扱っており、こちらも今作に深く関わっている。『Ⅰ』のような殺人に発展するほど物騒な事件ではないものの、盗作被害は複数人にのぼり、そのうえ事態は裁判の話しまで持ち上がるが、法律的にパクられ側が不利である事がわかる。死人は出ないが、状況としてはこちらも中々に穏やかではない。

シンデレラの原点をどう突き止めるのか。増え続ける盗作被害はどう収めるのか。
同時進行する難題がどうなるか、最後まで目が離せない。

今回の『Ⅳ』はこれまでのシリーズと比べてもかなり大衆的に作られていたと思う。
そのひとつは「取り扱われている作品が『シンデレラ』であるから」である。
過去3作では芥川龍之介や太宰治などの名だたる文豪たちの作品が取り上げられていた。それら名作と比べても『シンデレラ』はで圧倒的にライトであり、知ってる年齢層も広い。僕のような読書をしてこなかった人でも『シンデレラ』なら知っている。そんなシンデレラが、過去どういった変遷を辿り、今の形に至ったのか。
こういった、知的好奇心をくすぐる展開に興味を持つ人は案外多いのではないだろか。

もう1つ大衆的だと思った要素として、「気持ちのいい解決」という点を挙げさせてもらう。
結末に関してはネタバレを含んでいるため多くは語れないが、過去作と比べても勧善懲悪な場面があり、締めもいつもより清々しい。なので、具体的な内容を省いた端的な表現として「気持ちのいい」という言葉を選んでみた。
気になった方は是非読んでみてほしい。

ともあれ、以上2点の要素によって、本作はこれまでよりも大衆的に、言葉を変えるととっつきやすく物語に入り込みやすい作品になった。と、僕は思う。

ちなみに今作も李奈×優佳の百合カプが大変に捗る。

ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論 IV シンデレラはどこに (角川文庫)

事件の鍵は本の中にあり――。新感覚のビブリオミステリ!
中堅・グライト出版が大々的に売りだした新人作家REN。刊行した作品が女子中高生を中心に次々ベストセラーになるが、既刊からのパクり問題が浮上しブームは突如として失速。出版界の事件を解決してきた李奈には、被害作家からの相談が寄せられる。自著からの盗作も判明し、頭を悩ませる中、別の難題も抱えていた。「シンデレラの原典を探れ」という不可解なメールが届いたのだ。送り主の意図、そしてその正体は一体……!?

Amazon.co.jp より

écriture 新人作家・杉浦李奈の推論 Ⅴ 信頼できない語り手

日本小説家協会の懇親会会場で起きた大規模火災。小説家をはじめ多くの出版関係者が亡くなった。生存者はわずか2名。現場には放火殺人の痕跡が残されていたため、大御所作家を狙った犯行説が持ち上がる。ネット上では“疑惑の業界人一覧”なるサイトが話題になり、その中には李奈りなの名前も。放火犯は誰なのか?ベストセラー作家・櫻木さくらぎ沙友理さゆりと「万能鑑定士Q」莉子りこの登場で、前代未聞の事件の真相があきらかに・・・・・・!

出典:『écriture 新人作家・杉浦李奈の推論 Ⅴ』裏表紙

文学業界を揺るがす大事件が起きた。
業界で活躍する作家と出版関連各社の人々が集まる懇親会で、大規模な火災が発生。生存者たった2名。そのほか会場に集まった多くの人達は命を落とした。調べにより、火災は自動発火装置によるものと、出火時は外部から施錠されていたことが判明し、事件は何者かによる犯行であるとわかる。ネット上では人気作家を妬む業界人による犯行であると考察されており、“疑惑の業界人一覧”なるサイトも立ち上がる。その一覧には、主人公・李奈と、作家仲間の優佳、そして、懇親会を欠席していたベストセラー新人作家の櫻木沙友理の名も並んでいた。特に沙友理の知名度が高いこともあり、彼女の下に心無い批判コメントが大量に送られている。
李奈は、汐先島での事件から面識のなかった沙友理と再会し、彼女の売れっ子作家としての孤独と苦しみを知る。2人は状況を打破するため、生存者である藤森智明の元を訪ねる。こうして、2人は真相を求め動き出したのであった・・・。

今作は本編1文目から早々、大規模火災のモノローグから物語が幕を開ける。現場検証の結果、事件はどう見ても何者かの犯行である事は疑いようもなかった。作家・藤森智昭とホテル従業員・伊藤有希恵は、事件の状況を知る唯一の生存者であったが、2人の語る同時の状況に違和感はない。
違和感があるとすれば、本書表紙の美しいイラストと共に並ぶ「信用できない語り手」という副題ぐらいだろう。この副題のせいで、登場キャラのセリフ全てが怪しく見えてしまう。こんなメタ的なトリックを堂々仕掛けてくるとは、実に「écriture」らしい。

肝心なミステリー部分もよく出来ており、先の見えない難解さと、謎が解き明かされた時の気持ちよさは健在である。
前述した通り、「信用できない語り手」と呼ばれるトリックを副題とすることで、常に疑いを持たせて読ませるようにさせる手法が面白い。おかげでこちらも終始緊張感を持って読むことが出来たし、ミステリー小説ならではの謎解きの楽しみも増したような気がする。また、語り手である主人公・李奈も、警察に対して疑いを持つ展開もあった、作品に対する没入感も一層増した。
結果、最後まで気を抜くことなく読み抜くことができた。1冊読み切った後の満足度はいつもより大きいように思える。実質定価の倍以上は満足できただろう。

また、今作は『Ⅲ』ぶりに櫻木沙友理が再登場する。
前回登場した『Ⅲ』ではセリフが一切無く、結局どんな人物だったのか分からなかった。再登場の知らせはシリーズを追いかけていた読者的にも嬉しい展開だと言えるだろう。
満を持して登場した沙友理は、1人高級住宅街の大屋敷に住んでおり、ポルシェの高級SUV・カイエンを愛車としている。正に天才売れっ子作家に相応しい生活っぷりである。しかし、天才なりの苦しみもあり、繊細すぎる性格故に心の病を抱えている。また、若くして売れっ子作家に登り詰めたことで、知らずのうちにほかの作家との軋轢も生じていたりもする(詳しくは『Ⅲ』で)。
過去も一部明らかになり、デビュー前は化粧品の販売員であることもわかる。『Ⅴ』の劇中ではセリフが感情的になる場面も多い。
高級志向ではあるが、若干メンヘラ気味な面もある。僕的には十分に解釈一致なキャラクター像に大満足であった。

キャラクターといえば、他作品キャラのコラボ展開もアツく、本作には著者・松岡圭佑の過去シリーズである『万能鑑定士Q』の莉子が登場する。僕は同作の原作、漫画、映画と、全ての媒体で未読未視聴なので、今作で扱われたネタのほとんどがわかっていないが、多分原作ファンと松岡氏のファンは大歓喜なのだろう。
ともあれ、莉子の登場によって、今作の主人公・李奈はまた1つ逞しく成長したように感じる。これまで過去何度も事件に関わってきたが、今回の莉子との邂逅により、真実を求め進むための必要な強い精神力を得たように感じる。いつの時代、どんな作品でも、先輩から力を受け継ぐシチュエーションには心に熱いものを感じるものだ。
とりあえず、先ずは漫画版の『万能鑑定士Q』から読んでみようと思う。

ちなみに今回は李奈×優佳は薄目だった。

ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論 V 信頼できない語り手 (角川文庫)

読書メーター読みたい本ランキング続々1位の人気シリーズ
日本小説家協会の懇親会会場で起きた大規模火災。小説家をはじめ多くの出版関係者が亡くなった。生存者はわずか2名。現場には放火の痕跡が残されていたため、大御所作家を狙った犯行説が持ち上がる。ネット上では“疑惑の業界人一覧”なるサイトが話題になり、その中には李奈の名前も。放火犯はいるのか? ベストセラー作家・櫻木沙友理と「万能鑑定士Q」莉子の登場で、前代未聞の事件の真相が明らかに……!

Amazon.co.jp より

まとめ

今回読んだ『Ⅲ〜Ⅴ』も素晴らしかった。

『Ⅰ〜Ⅱ』では、犯人が犯行に及ぶまでの怒り、または、被害者側の痛ましさといった、心情を深く描くサスペンス要素が強かった様に思う。特に『Ⅱ』に登場した被害者家族の悲しむ描写を読むと、こちらまで涙が出そうになるくらいだ。
一方で、『Ⅲ』の「クローズド・サークル」での叙述トリック、『Ⅳ』のテキストマイニングを用いた分析、『Ⅴ』の「信用できない語り手」によるトリックと、刊を追う毎にこれまでよりもミステリー要素が強くなっている。ただ難しくなっただけではなく、文学ミステリの何相応しく、出版界や本の思わぬネタを絡めたトリックに磨きがかかっている様に感じる。

主人公・李奈の成長にも、毎巻驚かされる。『Ⅲ』での事件発生時の李奈は誰よりも冷静だったし、『Ⅳ』では解決時の締め方が探偵さながらな格好良さだった。これは、確かにトラブルを抱えた作家が助けを求めるのも無理は無い。
ただ1点気になるのは、『Ⅰ』で小説『トウモロコシの粒は偶数』を出版してから小説業の描写がどうにもパッとしない、という点だ。

果たして、この先李奈の作品が出版される日が来るのか。
現在発売中の最新巻『écriture 新人作家・杉浦李奈の推論VI 見立て殺人は芥川』での李奈の活躍に期待したい。

ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論 VI 見立て殺人は芥川
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