※ネタバレ若干あり
先日観に行ってきました、映画『ゆるキャン△』。
観に行ったその日は、シン・ウルトラマンの時と同じく有給休暇を取得し、1番早い上映に合わせて朝から最寄りの映画館へ入場。事前のネット予約によりチケット購入をスムーズに済ませ、早々と劇場に陣を構える。周りは僕のような男性客が既に上映を待ち構えており、皆『ゆるキャン△』の新作を楽しみしているのがなんとなく伝わってくる。そう、斯くいう僕もこの日を楽しみにしていた口であり、成長した野外活動サークル(以下は「野クル」とすりる)メンバー達がどう変わったのかずっと気になっていた。
そんなこんなで上映された映画『ゆるキャン△』の感想を以下に書き残していく。
ざっくりとした作品解説とあらすじ
そもそも『ゆるキャン△』ってどんな作品?
これは、ある冬の日の物語。
出典:TVアニメ「ゆるキャン△」公式サイト(https://yurucamp.jp/first/introduction/)
静岡から山梨に引っ越してきた女子高校生・なでしこは、“千円札の絵にもなっている富士山”を見るために自転車を走らせて本栖湖まで行ったものの、あいにく天気はくもり空。富士山も望めず、疲れ果てたなでしこはその場で眠りこけてしまう。目覚めてみるとすっかり夜。初めての場所で、帰り道もわからない。心細さに怯えるなでしこを救ったのは、1人キャンプ好きの女の子・リンだった。
冷えた身体を温めるために焚き火にあたる2人。
ぱちぱちと薪の爆ぜる音が、湖畔の静寂に沁み込んでいく。
焚き火を囲み、カレーめんをすすりながら会話するなでしことリン。
やがて2人が待ちに待った瞬間が訪れる。
「見えた……ふじさん……」
なでしことリン、2人の出会いから始まるアウトドア系ガールズストーリー。
原作者・あfろ先生による「女子高生」×「キャンプ」のゆるふわアウトドア漫画。
『まんがタイムきららフォワード』で連載され、現在は『COMIC FUZ』で配信中。可愛らしいキャラクターと美しい風景、そして美味しそうなキャンプ飯が高く評価されており、現在のキャンプブームの火付け役にも一役買った。アニメは2018年に1期がスタートし、2020年のショートアニメを挟んで2021年に2期が放送された。それら以外にもアニメ放送に合わせてラジオ番組が放送されたほか、2021年にはテレビ東京にて実写版が2期まで放映された。
そして2022年7月、いよいよ『ゆるキャン△』は劇場版へまでメディアを拡大させたのである。
映画『ゆるキャン△』ってどんな話し?
これは、少し先の冬からはじまる物語。
出典:映画『ゆるキャン△』公式サイト(https://yurucamp.jp/cinema/story/)
志摩リンは故郷の山梨を離れ、名古屋のちいさな出版社に就職し、一人暮らしをしていた。
とある週末、ツーリングの計画を立てていたところに、
高校時代の友人・大垣千明から唐突にメッセージが届く。
「今、名古屋にいるんだが」
山梨の観光推進機構に勤める千明は、数年前に閉鎖された施設の再開発計画を担当していた。
「こんなに広い敷地なら、キャンプ場にでもすればいいじゃん」
そんなリンの何気ない一言から、動き出す千明。
東京のアウトドア店で働く各務原なでしこ、
地元・山梨の小学校教師となった犬山あおい、
横浜のトリミングサロンで働く斉藤恵那。
かつてのキャンプ仲間が集まり、キャンプ場開発計画が始動する。
キャンプでつながった五人が、今だからできることに挑む、
アウトドア系ガールズストーリーの幕が上がる。
劇場版ではなんと高校生から社会人へと成長した姿が描かれる。
以前から本編終了後に劇場版が作られるアニメはしばしば見られるが、ここまで大胆に本編から時間が経過するのは珍しいだろう。しかも漫画・アニメ本編同様にゆるっとキャンプするだけでは無く、みんなで1からキャンプ場を作っていくのが今回の大筋なようで、最早やっている事がどこぞの本業が農家のアイドルグループと遜色がないように感じられるストーリーだ。
映画を観た感想
美しい背景と美味そうなキャンプ飯
本編が上映して真っ先に感じたのが背景に描かれた富士山の美しさだ。これがまた大きな画面に映し出されることでとても“スクリーン映える”。
また、冒頭のキャンプシーンなど随所に挟まれる食事シーンも素晴らしく、特にキャンプ中に作られた“キャンプ飯”が美味そうに描かれており、映画を観ているとは思えないほどに大変食欲をそそられた。
「美しさ」と「美味しさ」。どちらも「美」に関する事柄であり、劇場の大スクリーンはこれらを表現するのに最も適していると言えるだろう。アニメ本編でも背景とご飯の描写は強調しされていたが、今回の劇場版はそれを遥かに凌駕していた。特に後半に描かれた雪山は壮大に描かれており、再び盛り上がろうとする物語と相まってとても印象深い。
『ゆるキャン△』のゆるっとした雰囲気を残しつつも、作品をより際立たせる「美」がより一層強調されており、劇場作品としても十分な完成度を感じさせる出来栄えなのではないだろうか。
野クルメンバーたちの成長
今回最も気になっていた要素。どんな大人になっているのかという好奇心と、作中キャラの将来が決まることで想像の余地が無くなってしまう不安があったが、結果的には個人的にも納得出来る「彼女たち将来」を見届ける事が出来た。
以下、1人ずつ感想を語っていく。
①リン
最初は1人の時間を愛し、群れを好まない性格だったが、はなでしこを始めとした野クルのメンバーと関わる事で内面的に成長を遂げたリン。そんなリンは愛知で一人暮らしをしながら名古屋の出版社で働いていた。
なるほど、確かに読書好きなキャラだったし書店でバイトをしていたし、本好きな要素と野クルとの関わりによって得た社交性を考えた場合、これが最も妥当な回答だと言えるだろう。本編では主に誌面の企画を考える仕事をしていたが、以前は営業担当であった事も少しだけ語られており、高校時代から内面的に大きく成長している様子が伺える。また、祖父から譲り受けた大型バイクを乗り回し、山梨と愛知を往復するほどの強いフィジカルを得ている。
大人になった事で心身ともに立派に成長した大人しまりん。これこそファンが納得できる大人のリンだったのではないだろうか。
②なでしこ
引っ越した先で偶然出会ったリンがキッカケとなりキャンプの楽しさを知ったなでしこ。大人に成長した彼女は東京のアウトドア用品展に勤めており、無事大好きになったキャンプに関わる仕事に就くことが出来たようだ。
学生時代は何かと姉とリンから心配されていたなでしこだったが、劇場本編では立派に一人暮らしをしている様子が描かれている。声色も何処となく低く落ち着きがあるように感じられるせいか、野クルメンバーでは最も大人っぽく成長したのではないかと思う。
しかし、なでしこの持つ仲間思いな部分はそのまま残っており、卒業後散り散りになった仲間たちへ何気ない日常を共有している場面が見られる。社会人となり離れてしまいがちな友好関係が今なお保たれているのは、間違いなくなでしこという存在のおかげなのではないだろう。
また、物語の盛り上がりや野クルメンバーの感情といった作品全体の起伏を、なでしこが見る富士山の景色で表現しており、彼女自身が物語の上げ下げを表す重要な役割を担っている。富士山を愛するなでしこのキャラクター性にもピッタリとハマまり、『ゆるキャン△』らしさを感じさせる素晴らしい映像表現であった。
③千明
野クル創設者にして部長の千明は、大胆な提案と思い切った行動で物語の起点を作る役であり、『ゆるキャン△』に欠かすことの出来ない超重要キャラだと言える。そんな彼女は卒業後、東京のイベント会社へ就職。物語開始時点では山梨の観光推進機構へ転職し、地元を盛り上げるために日々はたらいている。キャラクター性にこの上なく合致した設定にもはやぐうの音も出ない。当然そのキャラクター性は劇場版でも存分に発揮されており、キャンプ場作りを始めることになったのも千明の提案によるものだ。
千明のように活発なキャラが将来どうなっているのか。実は1番楽しみであり、不安な要素でもあった。5人もキャラクターがいたら1人くらいは躓いている奴が居ても不思議ではない。そうなるとキャラ的に千明が1番危ういと思っていたからだ。『ゆるキャン△』の女の子たちの曇った表情だけは観たくなかったが、どうやらそれは杞憂に終わった様だ。県庁での企画書作りやプレゼン発表、キャンプ場予定地近隣に住む人々との関係作り等々、もしかすれば1番充実した将来を歩んでいるキャラなのかもしれない。だとすれば、上映前の僕の予想は余りにも的外れだったという事になる。
大人として成長した事による1番の変化といえば「酒豪キャラ」の付与だろう。キャンプ飯を食いながら酒を煽るシーンは宛ら鳥羽先生(通称・グビ姉)のようだったし、序盤居酒屋で酒を一気飲みする姿は、活発なキャラクター性と相まってとても様になっていた。また、千明が豪快に酒をカッ食らう姿を見せる事で、高校時代から間違いなく時が流れたことを実感した。「やっぱり大人になったんだな・・・」という、嬉しくもあり寂しくもある、何とも複雑な感情が上映中に込み上げてきたのであった。
④イヌ子
野クル創設メンバーの1人で千明の親友、そしてボケもツッコミもできる二刀流。犬子は5人のメインキャラの中で外見・内面が最も大人びており、卒業後の姿が1番想像出来やすいキャラだった。しかし、意外なことに大人となったイヌ子は小学校の教師となっており、僕自身全く予想していなかった進路を辿っていた。確かに(妹ではあるが)小さい子と1番関わっているキャラクターではあったが、まさか先生になるとは思わなかった。しかし、これは今後、犬子が教師を志すエピソードが原作で語られる布石なのかもしれない。それはそれでコミックス勢の僕としても楽しみではある。
もともとおっとりとして落ち着いていたキャラだったが、大人へ成長したことでより相応な雰囲気を漂わせていたように見える。
イヌ子といえば千明と最も付き合いが長く、今回の映画でもその関係性はより強調されている。その強い絆を感じられるエピソードとして、イヌ子の務める小学校の閉校式の件が挙げられる。式が終わり学校まで迎えに来る千明は感傷に浸るイヌ子に対して上部の言葉をかけるのではなく、いつも通りのノリで接して励まそうとする。その気持ちを察したのか落ち込んでいたイヌ子もいつも通りのノリで言葉を返す。互いが互いの気持ちを理解していなければ成立しない心のやり取り。高校卒業後も途切れることのない2人の絆に大きなエモさを感じずにはいられない。大人になり時が経っても変わらない友情がそこにはあった。
⑤斉藤
飼い犬の「ちくわ」のことを常に気にかける愛犬家の斉藤。リンの良き理解者でありながら、少し離れた位置で野クルメンバーを見守るお母さん(もしくは飼い主?)の様なキャラクターであった。卒業後の斉藤は、横浜のトリミングサロンでトリマーの仕事をしていた。なるほど、リンや野クルメンバーの髪型を変幻自在にアレンジしていたスキルと、愛犬家としてのキャラクター性が見事に融合している。これには全くケチの付けようがない程にピッタリな大人の姿だ。間違いなく彼女にとって天職なのだろう。
高校時代のキャンプでも常に愛犬のことを気にかけていたが、キャンプ場作りにおいてもそのスタンスは変わってはいなかった。キャンプ場の企画を立てる段階で真っ先にドッグランを提案するなど、その犬好きのキャラクターは大人になってもブレることはない。
斉藤の成長に伴い愛犬のちくわも歳を重ねており、結構な老犬へと成長している。見た目は変わってはいないものの動きはかなり遅くなっており、アニメ版の様に元気に走り回る姿からは程遠いものとなっている。これにより、アニメ本編から何年経ったか語られないものの、ちくわの存在によってそれなりに時間が経っているかが何となく分かるようになっている。劇場版における斉藤は、以前のようにみんなを見守るだけの役割ではなく、時間経過による消えゆく儚さと寂しさを演出し、成長とは何かを考えさせる仕掛けとして上手く機能していたように思える。何処となく第2期の広告にあるキャッチフレーズを感じてしまうのは僕だけだろうか。
大人になるという事は
今回の映画版では挫折や葛藤といったややネガティブな要素をはらんでいた。物語後半、5人はとある壁にぶち当たることになるのだが、その時に語られる「大人」についての話しがかなり共感できる内容だった。
ひょんな事から山奥の秘湯を目指すことになったなでしことリン。雪山を越え、長い道のりの先に辿り着いた温泉の中で、2人は大人について語り出す。何でも1人でできると思っていたが、実は誰かに支えてもらっていた事、大人になっても何でもは出来ないという現実、それでも自分が楽しいと思えることを他の誰かに伝えていきたい。壁にぶつかり、自分と向き合う事で、物語は再び動き出そうとする・・・。
彼女たちが感じた葛藤と挫折は割と社会人のあるあるではないかと思う。僕自身、大人になれば何でもできると思っていたし、何でも自分1人で出来ると思っていた。しかし現実は違い、大人になっても出来ないことはいくらでもあるし、自分1人ではどうにもならないことだっていっぱいある。かつて理想と現実のギャップに悩んでいた自分自身と、大人としての葛藤と挫折に悩む彼女達を重ねてしまい、懐かしさと悲しさが混ざった感情と何とも言えない没入間を体験することが出来た。
この映画が伝えたかったこと。それは「大人とはなにか」「成長とはなにか」だったのだろう。
まとめ
劇場版『ゆるキャン△』。観た感想を漢字で表すなら
「美・成長・大人」
こうなるだろう。
背景美術の美しさと美味しそうなキャンプ飯。
5人のキャラクターの成長。
大人になるということ。
ゆるくほのぼのとした雰囲気の中に隠れた哀愁、そして将来への希望。
誰かを倒したりだとか、どこかへ辿り着いたりではないが、最後には前向きな気持ちにさせてくれる素晴らしい作品だった。
感想は以上。
7月8日から入場特典が変わったらしいので、機会があれば2回目も狙いたいと思う。
ありがとうございました。
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