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当記事のまとめ
・ラブコメではなく実はハードな作品
・目的ではなく行動原理を追うストーリー
『朝比奈さんの弁当食べたい』
そのインパクトのあるタイトル、そしてU35さんによる表紙のイラストに釣られ、その本を手に取った。
まさかあそこまでに重たい話しだとは・・・。
見るからに学園ラブコメっぽい小説に手を出すのはいつ以来だろうか。30代になってからというもの、ラブコメに系統した作品に触れるのがどうにも気恥ずかしく思うようになっている。しかし今回は恥ずかしがる前に動いていた。Kindle unlimitedで読み放題だったのに加え、タイトルとイラストが余りにも魅力的だった。今回ばかりはいつもと事情が違う。
そんな出落ちインパクト特化のラノベ『朝比奈さんの弁当食べたい』を読んだ感想をざっくりまとめてみた。
ちなみに、なるべくネタバレにはなるべく配慮しているので、未読の方もご安心を。
作品のざっくりとした概要
あらすじはこちらから↓
男子高校生である主人公・牧誠也は、クラスメイトである金髪碧眼のヒロイン・朝比奈亜梨沙の作る「マズそうな弁当」に一目惚れをした。
亜梨沙の弁当を食べるためには交際するしかないと思い至った誠也は、彼女を屋上へ呼び出しその思いを伝えた。しかし、亜梨沙は自身を馬鹿にされたと思い、誠也の頬を叩き申し出を断った。それでも諦めきれない誠也は、幼馴染・創と後輩・結衣の力を借りつつ、不器用ながらも亜梨沙へアプローチを続けた。が、亜梨沙は不器用すぎて本心が読めない誠也の行動に困惑していた。
ある時、亜梨沙はふとしたキッカケで誠也へ自身の悩みを打ち明けたところ、彼は亜梨沙を優しく受け入れてくれた。それは、実直な誠也らしい答えではあったが、図らずも亜梨沙が最も欲していた言葉だった。次第に亜梨沙は誠也に惹かれていき、創と結衣を交えた4人で勉強会を開くほどに距離が縮まる。
しかし、亜梨沙はある夜、思いもよらない誠也の姿を目撃してしまう。それは、誠也に惹かれつつある亜梨沙には受け入れ難い、見たくはない誠也の姿だった・・・。
なぜ誠也が亜梨沙の弁当にこだわるのか?あの夜の誠也はなんだったのか?
なぜ良家の娘である亜梨沙は失敗した弁当を食べていたのか?
そして、2人の関係はどうなるのか?
ラブコメに見せかけた予想外にハードな物語
上の概要を見ていただいた通り、この小説はただのラブコメではない。
ラブに至るコメディの展開も普通ではないが、昨今出回っているラブコメの傾向を見れば特に不自然ではない。問題は概要の後半だ。物語的には本書の中盤以降の出来事なのだが、そこから一気に展開が重々しくなってくる。
物語前半部分で、既に重々しい展開を匂わせている場面があり、それら1部を以下にまとめてみた。
家庭環境が怪しい
・誠也の母は入院中
・誠也の母へ対する不自然なほどに丁寧な言葉遣い
・母の誠也に対する憎しみのこもった言葉遣い
バイトが怪しい
・ママという怪しい存在
・謎の事業内容
コメディ多めの学校生活パートの端々で上記内容を含む展開が挟まれるが、正直そこまで問題に感じるほど気にはならない。しかし、物語の展開と共に誠也の過去と、彼が身を置いている過酷な状況が分かってくる。それら全てが暗い。最後まではっきりされない部分も多いが、やはり重々しい。
多くの読者は、繰り広げられる予想外の展開に当惑したことだろう。正直、僕は読む前は誠也と亜梨沙が学校内でのドつき合いする話を予想していたため、後半の展開にはかなり戸惑っていた。
「なるほど、ここが話題の要因か」そう思い、世間の評判に納得したのである。
ヒロインからの視点・幼馴染からの視点
本書の感想を語る上で外せないのが物語の「視点」である。
本書は基本的に三人称の視点で物語が語られており、ヒロイン・亜梨沙の幼馴染・創の2視点が中心となり進行する。どちらもメインキャラクターではあるが主人公ではない。最初は、なぜ主人公である誠也の視点ではないのかと戸惑っていた。
では、なぜ主人公の心情が語られないのか。それはこの作品が目指すところにあると僕は考える。
先ず主人公の特徴を確認しよう。
主人公である誠也は家庭環境などを含め、全てにおいて謎に包まれている。例えば幼馴染の創は「何を考えているかわからない」「無感情・無趣味・無頓着をこねた人型に成形したような人間」と評している。そもそも、なぜヒロインの弁当を食べたいのかも分からないし、何を考えて行動しているのかも分からない。なぜここまで主人公の心情が全く分からないのか。それもそのはず。この作品はヒロイン・亜梨沙と幼馴染・創の視点で語られているからだ。
誠也からの告白を受けた亜梨沙は、「なぜ自分の作った弁当を食べたいのか」と疑問に思う。誠也から相談を受けた創は、「なぜクラスメイトの弁当を食べたいのか」と疑問に思う。そして、読み手も同様に「なぜ弁当を食べたいのか」と思う。これら疑問の根底にある誠也の行動原理に迫って行くことこそ、『朝比奈さんの弁当食べたい』の本質であり、着地点なのである。
普通のよくあるラブコメラノベなら「主人公がヒロイン付き合って弁当を食べる」が作品の着地点となるだろう。しかし本書は普通ではない。やはり『朝比奈さんの弁当食べたい』は一筋縄ではいかなかった。だがその普通ではないところが、逆に作品とキャラへいい具合の深みを持たせた。
彼の突飛な言動の根本にある動機や願望、信念や価値観は何なのか。ヒロインと幼馴染、それぞれの視点から物語を追っていくことで、読み手は作品の本質が見えてくるのである。素直によく出来ている。
まとめ
詳しく語りたいところだが、これ以上の感想はネタバレを多く含みそうなので、この辺りにしておく。
ひとまず今作のまとめ
- ラブコメではなく実はハードな作品
- 目的ではなく行動原理を追うストーリー
書店でやたら推されてる様子を見るに、かなりぶっとんだラブコメ作品なのだろうとは思っていたが、まさかここまで変化球の作品だったとは・・・。これは話題になるのもわかる気がする。
今作は、著者である羊思尚生さんのデビュー作らしい。終わり方的に続編は期待できないにしても、次に先生の書く作品がどんな尖った物になるのか、今後の動きに期待したい。
以上、ありがとうございました。
それはきっと恋ではなく、それは間違いなく愛だった。
クラス一の美少女・朝比奈亜梨沙がある日作ってきたマズそうな弁当に、高校生・牧誠也は一目惚れした。
「朝比奈さんの弁当が食べたいから付き合って欲しい」。
彼のそんな告白にバカにされたと思った亜梨沙は怒って誠也をフるが、彼の諦めない純真さと、悩みに寄り添う優しさに次第に惹かれていく。しかしある時亜梨沙は、誠也の人には言えない秘密を見かけてしまい――。
二人の仲はどこへ進むのか、そして誠也が亜梨沙の弁当に惹かれる理由とは。
切なくて、苦くて、愛しくて、美しい。青春物語開幕。
Amazon.co.jp より
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