『十角館の殺人〈新装改訂版〉』の感想

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 映像化されると話題になっていたので読んでみた。別にHuluに加入してないけど。

 本作は綾辻行人先生のデビュー作であり、ミステリ小説においては「新本格ブーム」の草分け的作品として界隈で知られている。尚僕はそれらの情報を読み終えた後に知った。読書界隈での転換点なんて僕のような一般読書人(どくしょんちゅ)にとってはその程度の認識である。そもそも新本格の定義がなんなのか今以てしてもよく分かっていないけれど、とにかく綾辻以後のミステリをそう総称するそうな。

 内容は所謂「クローズドサークル」もの。いわく付きの孤島・角島にやってきた7名の推理小説研究会員たち。島内にある謎の屋敷「十角館」で一週間の合宿を行う、はずだった。仲間の変死体の発見を機に一人、また一人と減る生存者たち。犯人は研究会の中にいるのか。それとも、かつて角島で亡くなったはずの住人・中村青司の仕業なのか。一方、本島に残された元研究会員・江南の元に中村青司を名乗る者からの手紙が届く。そこには元研究会員・中村千織の死に言及する一文が綴られていた・・・
 「絶海の孤島」「閉鎖空間」「連続殺人事件」
 既視感のあり過ぎる展開なのに、なぜか緊張感と没入感の高まりが止まらない。このガムずっと味がある。

 なんといっても「あの1行」は噂で聞いていた以上に驚かされた。完全にこちらの認知を逆手に取られていた。30年以上前の本が僕を手玉に取ってくる。読後冷静に考えてみると無茶苦茶な脳筋トリックに思えて仕方ない。どうも意外性で誤魔化されているような気さえする。しかしながら小説でしか味わえない面白い叙述トリックだった。映像化の際には一体どのようにして再現するというのか・・・いやもうしてる。マジかよ。

 とはいえやはり名作と呼ばれるだけあって楽しんで読めたと思う。無理があるように思いつつも全体的によくできていたし、孤島での緊張感と本島でのワクワク感とで緩急が効いていて、最後まで飽きることなく物語に没入することができた。間違いなく死ぬ前に読んでいてよかったと思える推理小説である。
 ただ個人的には中村千織が亡くなった理由だけがどうしてもが気になる。犯人による怪文書の通り、あれは本当に推理小説研究会たちによる人災だったのか。それとも不幸な事故だったのか。やはり意外性で誤魔化されているような気がして仕方がない。いちいちそんなところに気を向けているようではミステリ小説好きを名乗れないのだろうか。


◯書籍情報
作名・『十角館の殺人〈真相改訂版〉』
著者・綾辻行人
販売元・株式会社講談社
発売日・2007年10月16日
定価価格・860円(税別)
形態・文庫本
判型・A6判
ページ数・512
ISBN・9784062758574
十角館の殺人 <新装改訂版>(綾辻 行人)|講談社BOOK倶楽部
https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000204571

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