以前『スピン第4号』で読んだ『ニューヨークの魔女』の著者・坂崎かおるによる初の作品集、とのことで発見即購入。あのしっとりとしていてさり気ない百合作品を僕はまた読みたかった。
で、最近までちまちま読み進めた末にどうにか読了。今回も感想をまとめてみる。
まず驚いたのは掲載作品の多くがSF作品であった点だった。こあまりSFを書く人ではない勝手にイメージしてたものだから結構意外だった。しかも『ニューヨークの魔女』のような史実に基づくタイプもあれば日常で巻き起こる少し不思議もあり、かと思えば近代的なサイエンスフィクションものもあったりなどSFバラエティも富んでいる。
しかしながら作品の放つ静謐さと深淵に潜むへと引きずり込まれるような雰囲気は、正しく『ニューヨークの魔女』で感じたそれと同じで、どこか危うさもありながら、それでも作品から目を離すことができない語りはかつて『スピン第4号』で受けた衝撃そのものだった。それでいて百合要素も奥ゆかしいものから直接的なものまであり抜かりがない。僕がまた読みたかったの坂崎かおるはここにあった。
短編の中で特に『私のつまと、私のはは』は印象深かった。女性フリーライターである主人公・理子がとあるクライアントから送られた「子育て体験キット〈ひよひよ〉」を使って育児体験をする、という物語となっており、人が子を持つ覚悟と女性カップルたちの苦悩、そして昨今押し付けがましさが更に増したポリコレ問題など、不用意に発言すればたちまち炎上必死な問題についてひたすらにモヤモヤさせられる1作だった。登場人物が女性中心であるものの、擬似的であれ育児をテーマとした作品ということもあり、4歳児の父として育児の日々を送る僕としても非常に共感できる描写が多く描かれている。とりわけ主人公のプライベートが〈ひよひよ〉によって侵食されていく様には頷き過ぎて首がもげ取れそうになるレベルで共感を覚えた。育児によって自己が削ぎ落とされる現象に葛藤を覚えてしまうのは、単に覚悟が足りないからなのか、それとも親としての資格がないからか。擬似育児体験機が不適格な親を間引く篩に思えてしまうのは、僕が親として未熟者だからか。思わず自問してしまう。
あとは表題作の『嘘つき姫』も印象深い。マリーとエマの語る言葉のどこからが嘘でどこまでが真実なのか、いまいちスッキリとしない読後感が残ったものの、人が嘘をつき続けるために背負う覚悟と苦痛について深く考えさせられた。誰かのためにつく嘘ならば最後まで嘘を曲げてはいけないし、家族や愛する者のためなら尚のこと覚悟を持って責任を追うべきなのだと。だからこそ、嘘の重みに心身が潰されないためにも、人は正直でなければならないのだろう。シスターがマリーに言った「嘘をつくなら、最後までです。」の言葉さ正に至言である。
それはそれとして、こちらの百合も奥ゆかしく風情があって良い。8編目ともなると段々と自分が何にでも百合として見てしまう異常者ではないかと不安を覚えてしまうところだったが、この『嘘つき姫』についても他短編と同様に勘違いとは思えない意図的な百合味が感じられた。これは7/10発売の新刊『海岸通り』にも良質な百合を期待せずにはいられない。
◯書籍情報
作名・『嘘つき姫』
著者・坂崎かおる
販売元・株式会社河出書房新社
発売日・2024年3月27日
定価価格・1,700円(税別)
形態・単行本
判型・四六判
ページ数・264
ISBN・9784309031781
嘘つき姫 :坂崎かおる|河出書房新社
https://www.kawade.co.jp/sp/isbn/9784309031781
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