読書を趣味にしてからここ最近、折を見つけてはふらっと書店へ立ち寄っている。一昔前まで少年漫画コーナーしか近づかなかった自分も、さまざまなジャンルの棚を見て歩くようになった。
その中でも文芸誌コーナーへよく足を運ばせているのだが、これには我が事ながら驚いている。用事は専ら次読む本の情報収集。KADOKAWAの『ダ・ヴィンチ』なんかがカジュアルで、流し読みするだけでも面白い。
そんな文芸誌コーナーで、棚の中にひっそり隠れる白い本を目にする。
河出書房新社の『スピン』である。
誌名に「栞」を意味する「spin」。紙の雑誌に栞の名を与える名にしてはなんとも洒落ている。興味深い特集記事も組まれていて、何より今ハマっている某Vtuberの概念が感じられるのが良い。
という訳で購入した本書の感想を書く。
『ニューヨークの魔女』著・坂崎かおる
世は19世紀末、電気事業黎明期。
企業抗争の最中うみ落とされた「電気椅子」に、「魔女」と呼ばれる不死の女が選ばれた・・・。
無慈悲に執り行われる処刑ショー。
どこか感じる焦げ臭さと、間際に見せる艶やかさ。
非人道的だと分かりながらも、読み進まずにはいられない。
テーマはまさかの「電流戦争」。
ニューヨークで働く女性のサクセスストーリーでもなければ、特殊な力を持つ少女のサイエンスミステリーでもないし、ましてニューヨーク帰りのロボット戦記もない。
これは実験と称し電気を流され続ける女性の話。ミステリアスな妖艶さはあっても、エネルギッシュさは感じられない。
主要人物は、電気技師の女性アリエルと、死ねない女性の名無しの淑女。そして語り手となるのがアリエルの甥っ子であり助手の「僕」。
「僕」から見るアリエルは女性だてらに実直な職人気質ではあるが、被験者であるジェーンに対し慈悲のない冷酷さも持つ。一方ジェーンは希死念慮で、生に執着がない。そんなジェーンの神秘的で魅惑的なところに惹かれる「僕」。とはいえ処刑をやめさせるのでもなく、実験と称した電気椅子ショーを提案し、果てや進行役として舞台を盛り上げる。
そんな「僕」の想いを他所に、ちょっと奇しいアリエルとジェーン。行間を読む限り、恐らく2人はそういった感じになっているのだろう。なんだ百合かぁ!(突然の大声)
処刑する側とされる側。歪すぎる関係にミステリアスさが一層増す。
二つの意味で道徳心が試される一作であった。
斉藤壮馬エッセイ『書を買おう、街へ出よう。』
斉藤壮馬って今『るろ剣』の主演やってる声優だよな?
と思ったら正にその人だったでござる。
アニメでしか知らなかったけど、まさかこんなにも趣のある文章を書ける人だとは思わなかった。演技はもちろん文才もあって、オマケに男前ときた。あまりにも持ち過ぎている。
今回は、田村隆一・著『詩人の旅』、そして、ご自身の「旅」と「父」がテーマとなる。
『詩人の旅』を通し振り返る思い出は、父と若き日の壮馬青年との男2人旅の記憶。助手席に座る自身から見た、運転席の父と外の世界。精進料理を肴のあてに、次第に縮まる親との距離。宿坊で起きたトラブルと、父が背負った覚悟と責任。
リアリティのある描写は、以前その現場に居合わせてたかの様に情景が鮮明に脳裏に浮かぶ。しかも短編小説のように緩急のあるまとまったストーリーは普通に面白かった。
・・・ふと親との記憶が思い起こされる。親と旅に出たのは何年前だったろうか。いつからか自分の楽しみを優先し、親との時間を作らなくなっていたことに気がつく。
斉藤さんは『詩人の旅』巻末に記された「あとがきのあとがき」を引用しエッセイを結んだ。その文を噛み砕き、個人的に解釈してみる。旅とは遊びであり、遊びとは学びであると。
意味が合っているかどうかは知らん。
小特集『いま、少女小説を読みたい』
本書を読みたいと思うキッカケこそ正にコレ。僕にとっての未踏の地。選択ばかりの人生といえど、この「道」だけは選ばなかった。
そんな少女小説の特集記事。記事によると高瀬隼子さんや凪良ゆうさん、青山美智子さんらにも影響を与えていたとのこと。3名ともなんらかの受賞歴を持つ大物女性作家だ。児童向けのジャンルとはいえ馬鹿にはできない。
記事を読み進めると、なぜ少女小説が受け入れられたのかが分かる。読者である少女たちは、物語のなかで生きる少女に憧れ、共感し、元気を貰っていたのだと。
例えば記事内で度々取り沙汰される『赤毛のアン』。孤児院暮らしを経験した彼女は容姿に劣等感を抱きつつも、明るい性格で楽しくおしゃべりする少女。特別な出自ではないが、それでも前向きに生きようとする。存在が一般的な少女の読者に限りなく近い。
女子はプリンセスに憧れるもの、と以前妻から聞いたことがある。誰しも特別な存在になりたいという思いがプリンセスへの憧れに繋がったのだろう。しかし一方で、特別ではない普通の自分も認めて欲しいと思ったに違いない。そんな少女たちを肯定してくれたのが少女小説なのだったに違いない。
少女たちが持つ高い想像力と、共感性と感受性。いずれも少年時代の僕が持っていなかったものを、少女たちは持っている。そんな彼女たちの生活と人生を支える存在として、少女小説は今も多くの少女に読み支えられているのだろう。
と、勝手に解釈してみる。
まとめ
文芸誌の購入は何気にはじめてだったりする。330円とはいえいつも以上の覚悟と気合いを込めてレジに向かったと思う。
読んでみて色々気付いた。
こういう雑誌って拾い読みだけでも十分楽しめるものだなと。
連載ものって途中から読みたくない性分だけど、ならばそもそも読まなくてもいいじゃないかと。
欲しい情報をじっくり読むために雑誌を買うのも悪くない。そのついでに得た新たな発見と広がる知見こそ、知らない雑誌の醍醐味なのだと。
◯書籍情報
誌名・スピン/spin 第4号
著者・恩田陸、尾崎世界観、斉藤壮馬、ほか
販売元・河出書房新社
発売日・2023年6月27日
定価価格・300円(税別)
形態・雑誌
判型・A5判
ページ数・160
ISBN・B0C4N2SD8X
スピン/spin 第4号|河出書房新社・https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309980560/
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