『気になってる人が男じゃなかったvol.1』の感想

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昨年4月に投稿して以降、とんでもない大バズりを見せたあの尊み3000倍凸凹百合カプ恋愛Twitter発の漫画作品・著=新井すみこ『気になってる人が男じゃなかった』を読んだ。

著者の新井すみこ氏は現在フォロワー89,100人超えの人気絵描きツイッタラー。投稿した同作品の総いいね数は1000万を超えているとの事。更には、雑誌『ダ・ヴィンチ 2023年6月号』においてインタビュー記事が掲載された事で全国区へ進出。最早みんな知ってるレベルの高い認知度を誇る。
「Twitterでタダで読めるのにわざわざ金出して読む」という人は僕だけではないはず。あなたのあのフォロワーさんもそのフォロワーさんもきっと買っているに違いない。

この作品の感想を書くに当たり、当初は「百合カップル尊いブヒ〜」程度の感想しか思い浮かばなかった。それじゃあ流石に頭が緩すぎると思い直し、真剣に作品と向き合うことにした。

以下は向き合ったことで見えてきた作品の感想。


一応この作品のあらすじを背表紙から引用。

CDショップで働いているミステリアスな〈おにーさん〉が
気になってしかたがない女子高生・あや。
しかし彼の正体は「空気」のように
存在感のない同級生・みつきだった。
ありえない出会いから加速していく愛情のゆくえは――。

出典:『気になってる人が男じゃなかった vol.1』背表紙より

この漫画は、高校生女子の周りから認められない価値観と、価値観によって結びついた友情や愛情を超えた絆を描く青春百合漫画だ。
百合漫画らしく華やかでブヒれる要素は多分に含まれている。また、メインキャラ2人の共通点である「洋楽ロック」要素が至る所に散りばめられているだけではなく、主張の強い黄緑色が全体通して使われているなど、どこか1本筋の通ったロックさを感じずにはいられない。そんなロックさと華やかさの対極構図こそ、正に昨今世間で重要視されるべきとささやかれている「多様性」「価値観」を表している、のだと僕は思う。

人は誰しも世間体や一般的な価値観を基に、自身が生活し易い環境を構築しているものだ。逆に、それら世間体や価値観から外れてしまうと非常に生きにくくなってしまうとも言える。世界で人種・性別の自由な多様性について叫ばれているなか、国内でもLGBTQ法案について活発に議論されている。ここまで“多様性に理解がある人間は良い人間”という世間体が構築されていたとしても、マジョリティ(多数派)から外れたマイノリティ(少数派)の生き辛さは今も尚変わっていない。

今作のメインキャラ2人も、学校という小さなコミュニティで少数派としての悩みを抱えている。

1人は「気になった方」の女子・あや。彼女は普段、教室で友達と話したり、メイクしたり、恋バナしたりするよく居る所謂陽キャなイケイケ女子高生だ。何の問題無さそうに見える彼女だが、実は大好きな洋楽ロックの良さを友達と共有できないことに若干の辛さを感じている描写がある。そんなあやが、同じ曲のセンスを持つであろ“推し”の男〈おにーさん〉と出会う。容姿・雰囲気までもどストライクな〈おにーさん〉は、あやにとっての憧れの存在となった。

その〈おにーさん〉こそがもう1人のメインキャラ・みつきである。実はあやとは席が隣の同級生であり、同性の女子高生だった。CDショップで働くカッコいい〈おにーさん〉としての姿こそ、みつき自身の望む在りたい姿である。しかし、学校では店員の時の姿を隠しており、所謂陰キャな地味で目立たない装いをしている。自分の好きが異質であることを知るみつきは、防衛手段として空気となることでクラスに紛れる方法を取っているのだ。そんな時、店員としての姿に好意を持ってくれる洋楽ロック好きのあやと出会う。

あやとみつき双方とも、自身が少数派であることを自覚しと同時に、少数派としての生き辛さを理解している。どちらも普段は少数派としての自分を隠して生活をしているが、実は圧倒的に多数派との関わり方が違う。
あやは周りの多数派と価値観を合わせていることで多数派に混ざっている。一方、みつきは人と極力関わらず空気となることで多数派の中に紛れている。人と関わるか否か。人と価値観を合わせられるか否か。2人の学校での立ち回りを見ることで、どうあれば「一般的」な立ち振る舞いができるかだけではなく、陽キャと陰キャの性質にどんな違いがあるかが見えてくる。

しかし、価値観に絶対がないのと同じく、人との立ち振る舞いにも絶対はない。陽キャとか隠キャとか、同じ多数派とかでしか関係を構築できないわけではない。あやとみつきの様な「好き」を通して2人だからこそ、家族や親友を超え、苦楽を分かち合える真の仲となれる。そういった仲の存在とは、たとえコロナの様な未曾有なパンデミックで距離が離れようとも、決して切れない関係となるのであろう。

価値観の異なる人たちとの関わり方、陽キャ・隠キャの性質、絆の切れない仲とはどんな関係か。
百合漫画にこれからの人間関係作りの在り方、そしてこの漫画のエモさと尊さの正体を見た。


最後に、この作品を読んでみつけたココ好きポイントを3つ挙げてみる。

ココ好きポイント

・「推しのおにーさん」から「友達なりたい古賀さん」へと変わるあやの心情が尊い
・黄緑色の大胆な色使いがセンス良い
・早い段階で「男じゃなかった」ことが発覚してお友達になるテンポの良さ

Twitter上でもまだまだ更新されている同作品。いちファンとして、大沢さんと古賀さんにはこれからも末長く爆発してほしい。

気になってる人が男じゃなかった VOL.1 (KITORA)

私が推している彼は、男じゃなかった。
CDショップで働いているミステリアスな「おにーさん」が気になってしょうがない女子高生・あや。しかし「おにーさん」の正体は、話したこともない、クラスメイトの目立たない女子・みつきだった――。
Twitterで最高に注目を集める女同士の「愛情」を巡る物語、待望の書籍化。
みつきの過去をめぐる、描き下ろしストーリーを収録。

Amazon.co.jp より

以上、ありがとうございました。

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