宿野かほる=著『ルビンの壺が割れた』を読んだ。
不気味な表紙に意味深なタイトル。帯と宣伝ポップに書かれた「大どんでん返し」の文字。手に取ってみて驚きの軽さ。
「大抵のミステリーはどんでん返しがあるものだろ。」「これはきっと出版不況を憂いた新潮社による誇大広告に違いない。」
僕はそうやって逆張りをしていた。
しかし、「サクッと読めそう」と思いなんとなく手に取ったことを機に、僕の手の平は180度ひっくり返ることになる。
今回は僕の手首もどんでん返しさせた小説『ルビンの壺が割れた』の感想をまとめてみた。
『ルビンの壺が割れた』の簡単あらすじ
物語は、ある差出人から「結城未帆子」という女性に向けたメッセージから始まる。
差出人は「水谷一馬」。ある春の日、インターネットと無縁な暮らしを送っていた彼は、フェイスブックでかつての恋人「未帆子」を発見する。
大学生時代の出会い、共に過ごした演劇部時代の思い出、そして28年前の結婚前夜。当時を懐かしむ一馬は、返答が無いと分かりつつも、幾度に渡り一方的なメッセージを送り続ける。
3度目の春が来たある日、返ってこないと諦めていた未帆子からのメッセージが送られてきた。
物語は2人のやりとりを機に動き出す。
未帆子はなぜ結婚式から逃げ出したのか?なぜ執拗にメッセージを送り続けるのか?
28年前の真実が今明かされる・・・。
『ルビンの壺が割れた』の注意点
※以下ネタバレちょっとあり!
表紙や紹介文には特に明記されていないが、本書の内容には「R18」を含む性表現と、若干の胸糞・狂人要素が含まれている。
・かつての恋人同士で繰り広げられる淡い恋物語を期待している方。
・楽しい話を期待している方。
・心臓の弱い方。
上記に当てはまる方は注意。
『ルビンの壺が割れた』の感想
『ルビンの壺が割れた』の良かった点を3つあげてみた。
新鮮な読書体験
本書の物語は、男性「水谷一馬」と女性「未帆子」によるメッセージのやり取りに取って繰り広げられる。一方の視点による一人称視点であったり、神の視点による三人称視点の小説ではない。所謂「書簡体小説」と呼ばれるジャンルの小説に近く、フェイスブック上で交わすメッセージのやりとりによって物語が進行する。紙のやり取りよりかは今の読者に馴染み深いはずなのに、いざ小説として見るとなぜか現代的な様に感じる。昔途中で読むのをやめた書簡体小説『こころ(夏目漱石=著)』と違い、書簡の形式は圧倒的に未来的だ。
2人のメッセージ交換を読んでいると、色々と考えさせられるものがある。
例えば、差出人の1人・一馬は自身のことを「不幸体質な良い人間」としてメッセージに綴っている。読み手も一馬のことを「不幸体質ではあるが人として誠実で演劇に対して熱い心を持った青年」と同時に、所々綴られる変態メッセージから「どこか狂人性を秘めた男」という印象を持ったことだろう。そして送信先である「未帆子」について、「不可解な裏切りがあったものの清純な女性」という印象を持ったはずだ。
しかし、これらの印象はあくまで文章から感じられる表面上のものであった事を後に知ることになる。
つまり、人は自分の都合の良い事しか語らないのである。
日記を書くとき、その日起きたカッコ悪い出来事を書き残そうとはしない。日報や報告書にだって、成果が上がらなかったことだけを書きたくはない。それはメールやSNSも同様だ。
一馬自身が意図的に語らない真実が次々に暴かれ、物語と同時に一馬自身の印象もひっくり返る。
この2つの衝撃に、初見時の僕は驚きの余り内心ひっくり返ってしまう。
DMトラブルを擬似体験
先述した通り、本作は2人の登場人物によるメッセージによって物語が進行する。しかも、それはフェイスブック上のメッセージ(多分facebook messenger)。つまりはSNS上で送られるDMだ。
ある程度ネットリテラシーの高い人ならば、SNS上の「DM」に対してかなりの警戒心を持っているのではないだろうか。不審なアカウントからの怪しい怪しい勧誘DMを受けとったことがある人。見知らぬユーザーから変な画像をDMで送りつけられたことのある人。レスバが繰り広げられているDMのスクショを見たことのある人。ほとんどの人がそれらのトラブルに近づきたくないと思うはずだ。
差出人の男・一馬の送るメッセージも十分に怪しいメッセージだと言える。一馬は物語序盤、送信先の女性・未帆子を異常なまでの執着心で特定した旨の内容をメッセージに綴る。それだけではなく、後に無関係の未帆子に対してかつての婚約者との情事を語り始める。これらの変態的なメッセージは耐性の無い人には耐え難いかも知れない。しかし、現にネット上ではこういったメッセージによるトラブルが頻発している。
一馬のメッセージは、小説というにはやけに現実味がある。それ故に、小説でありながらやたら現実味の高いネットトラブルを体験できる。読後に確認する僅か190のページ数には只々驚かされるばかりである。
ラスト9ページ怒涛のどんでん返し
多くの読者が最終盤、未帆子の送るメッセージに言葉を失ったのではないだろうか。
なぜ一馬はインターネットに不慣れだったのか。なぜ未帆子が結婚式に現れなかったのか。端々に散りばめられた点と点が、最後の9ページで一気に1つの線となる。
「まさかこんな結末だったとは!」
全く先の読めない展開だっただけあって、その衝撃は途轍もないものだった。
余りにも月並みな感想となってしまうが、やはりこの本は「大どんでん返し」が面白い。
まとめ
当記事では『ルビンの壺が割れた』の簡単なあらすじ、読む前の注意点、良かった点3つによる感想をまとめた。
ページ数は190ページと少ない上、SNS上で繰り広げられるメッセージということもあって現代風で読み易い。僕の様に読書スピードの遅い人間でも1日もあれば読了可能な作品となっている。
オマケに価格は定価490円(税別)と手に取り易い。
・未読の方
・読もうかどうか迷っている方
・読書に慣れてない方
こんな方々に自信を持ってオススメできる1冊である。
すべては、元恋人への一通のメッセージから始まった。
衝撃の展開が待ち受ける問題作!
「突然のメッセージで驚かれたことと思います。失礼をお許しください」
――送信した相手は、かつての恋人。フェイスブックで偶然発見した女性は、大学の演劇部で出会い、二十八年前、結婚を約束した人だった。やがて二人の間でぎこちないやりとりがはじまるが、それは徐々に変容を見せ始め……。
先の読めない展開、待ち受ける驚きのラスト。前代未聞の読書体験で話題を呼んだ、衝撃の問題作!
Amazon.co.jp より
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