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écriture 新人作家・杉浦李奈の推論 VII レッド・ヘリング
24歳になった李奈は引っ越しを終えた新居で心機一転、小説家として新たな一歩を踏み出そうとしていた。新刊の評判は上々。しかしそんな状況に水を差すような事態が! アマゾンの評価は軒並み星一個となり、行った覚えのない店での痴態が撮影され、書きもしない官能小説が自分名義で編集者に送られていたのだ。一体何が起きているのか? 混迷を極める中、出版社にいる李奈を呼び出す内線電話がかかってきて……。
出典:『écriture 新人作家・杉浦李奈の推論 Ⅶ』裏表紙
豊富な文芸知識と読み込みの深さ、そしてミステリ作家としての優れた洞察力により、数多くの事件解決に貢献してきた新人作家・杉浦李奈。彼女は本業が小説家でありながら毎度物騒な事件に巻き込まれてしまう挙句、その実績は望まずして警察やマスコミから注目を集めた。そんな中、出版された長編小説『マチべの試金石』の売れ行きは良く、徐々にではあるが世間から作家として認められるようになる。
着々と作家として実力と知名度を積み上げていく矢先、李奈に突如として不幸が訪れる。下落する著書のアマゾン評価。読者による公表した覚えのない新居への詰めかけ。出版社へ届いた書いた覚えのない官能小説の問い合わせ。母の元へ届いた身に覚えのない飲み屋での映像。アマゾンKDPで出版された書いた覚えのない盗作小説の問い合わせ。突然過ぎる出来事に、李奈は卒倒してしまう。
李奈は万能鑑定士Q・小笠原莉子の力を借り、身に覚えのない事態を調べてゆく最中、狙いすましたかの様に鴇巣東蔵と名乗る男が現れる。李奈の身に起きた事態を全て把握している鴇巣は、半ば強引に“丸善版『新約聖書』”を探し出すように命令する。自身の評価は今後の作家生活に支障をきたすと理解している李奈は、やむを得ず鴇巣の指示に従い『丸善版聖書』の探索を始めるのであった。
多額の負債を背負った鴇巣が聖書を求める理由。李奈の行動を伝える内通者。記録に一切の繋がりがない徳川慶喜と聖書の関係。目的も手がかりもない、何もかもの当てが無い聖書探索の先に待つ真実とは・・・。
先ず、内容よりも先にコミカライズの事に触れておきたい。仕事中、Amazonにオススメされた本書の表紙を見た時、恥ずかしながら初めて『Ⅶ』が発売されたことを知った。そして数日遅れて慌てて職場近くの書店に駆け込んみ『Ⅶ』を見つけ、本書帯に書かれた「コミカライズ決定」の文字と、nuso氏の描かれた李奈のイラストを見て衝撃を受けた。
いやめでたい!帯のイラストから漂う幸薄そうな雰囲気が完全に解釈一致!何より巻末に収録されている漫画では李奈に抱きつく優佳が描かれていて全てがオレに良し!なんで誰も教えてくれなかったのかと勝手に憤っていたが、もう全部許す!
また、前作発売から結構間空いてたし、もしかすれば何らかの動きがあるのかとは思ってはいた。これまで毎回巻末に次巻の予告が書かれていたのが『Ⅵ』には無かったのも引っかかっていた。これは『Ⅶ』の情報と同時に大きな発表があるに違いないと思っていた。それに版元があのKADOKAWAだ。売れそうなタイトルなら何だってやるに違いない。そう思ってたが、まさか漫画版の連載が始まるとは思わなかった。連載開始は2023年夏。これでまた来年まで頑張って生きる理由ができた。
ありがとう、KADOKAWA・・・
↓以下本編について
今作のキーワードは「聖書」「徳川慶喜」「発信者としての覚悟」だろう。これまで『シンデレラ』や『ももたろう』といった国籍・年代を超えた有名作品を主とし事件が展開されてきた。今回取り扱う『聖書』も負けず劣らず歴史が古く、広い知名度を誇る大ベストセラー作品だ。なんたって教典として今日まで信者によって語り継がれた物語だ。取り扱うテーマとしては、今や7作目まで続く『écriture』シリーズに相応しいと言えるだろう。
スランプの脱却と母とのわだかまりの解消、そして新作長編小説の入稿。明るい先行きを思わせる清々しいラストを迎えた前作『Ⅵ』から一変、今作『Ⅶ』は主人公・李奈のみならず読者までをもドス黒い悪意の底に突き落とされる。悪質なレビュー操作、なりすましによる盗作、ディープフェイクによる情報操作、その他恐喝・恫喝などなど、この世の悪意の中の悪意が李奈に向けられる。インターネットで気軽に情報発信が可能となった現代社会において、発言の内容如何によっていつ被害者となってもおかしくない。とはいえ、24歳新人作家1人が全て受けるにはあまりにも酷な話しだ。これまで幾度となく事件に巻き込まれてきた不幸体質の李奈だったが今回は別格だ。
皆が「丸善版聖書」を求める理由は中盤以降になってようやくわかる。鴇巣たちも言っていた通り、なぜ李奈を陥れるような事をしたのか腑におちる。ただ理由がわかったからといっても李奈は不幸のままで、物語の最序盤から終盤までの間なにかと辛い出来事が続く。聖書を絡めたトリック以上に、聖書を求める理由と鴇巣サイドの結末が気になり過ぎてめくるページが止まらない。これがあるからミステリ小説は良いと改めて思わされた。
『écriture』シリーズといえば見逃せないのが主人公・李奈の成長だ。巻を重ねる度に事件に慣れるのは勿論、小説家としてだけではなく人間的として着々と成長を重ねている。今作『Ⅶ』では度重なる嫌がらせを受けながらも、作家としての生活を守るため懸命に動く。そして、理不尽な状況下であったとしても折れない姿が描かれている。1巻を読み直してみると別人レベルの対人能力と頭のキレが異常に跳ね上がっているように思える。そんな中、今作では更に小説家としてまた1つ成長する機会が訪れる。作家としての責任と覚悟を持った彼女は、もう気弱でオドオドしていた李奈ではない。24となり新居へ引っ越しただけではなく、小説家としても新たな一歩を踏み始める。その先が輝かしい未来ではなかったとしても、李奈は臆すことなく前へ進み続けるだろう。
馴染みのない聖書と、李奈が受ける過剰な嫌がらせの数々。読み進めるなかでこの2つをどこまで受け入れられるか心配であったが、全くの杞憂で終わった。それ以上にコミカライズの決定は衝撃的だった。それにこれまで以上に李奈と優佳の絡みが多かったのが百合豚 僕的に良かった。次巻『écriture 新人作家・杉浦李奈の推論Ⅷ 太宰治にグッド・バイ』は忘れないように発売日に買おうと思う。
ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論 VII レッド・ヘリング (角川文庫)
24歳になった李奈は引っ越しを終えた新居で心機一転、小説家として新たな一歩を踏み出そうとしていた。新刊の評判は上々。しかしそんな状況に水を差すような事態が! アマゾンの評価は軒並み星一個となり、行った覚えのない店での痴態が撮影され、書きもしない官能小説が自分名義で編集者に送られていたのだ。一体何が起きているのか? 混迷を極める中、出版社にいる李奈を呼び出す内線電話がかかってきて……。
Amazon.co.jp より
まとめ
師走。これまで暖かかったのが考えられない程の大寒波の訪れにより、12月にしてようやく冬らしい季節となった。
こうなると夜に読書をするには少し厳しくなる。僕のような読書慣れしてない男では読書で使う集中力を手足を振るわせるのに削がれてしまいかねない。暖房とUNIQLOのヒートテック、そして暖かい紅茶を頼りながら冬を乗り切っていきたいと思う。
さて、『読書1ヶ月3冊』を目標に掲げてからもうすぐで1年が経とうとする。当初は達成のしやすさと読書の続けやすさを優先して考えた目標だったのにも関わらず、読書以外の事に熱中し過ぎた余り、3冊の目標を達成できない月もあった。それどころか、ブログそのものの更新に支障をきたす時もあった。結果として、今年は自分の不甲斐なさを実感させられる1年となってしまった。
そんな訳で、低く設置したハードルをも越えようとしない自分を戒めるため、来年も『読書1ヶ月3冊』を継続して目標としていきたいと思う。同じ目標なのは、やはり達成のしやすさと続けやすさによるところが大きい。あくまでも無理のない範囲で読書を続けられるよう気を引き締めていこうと思う。
以上、ありがとうございました。
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