毎月月末恒例のいつものやつ。
今年の6月はとりわけ雨が多かった訳でもなく、むしろ例年よりも高温だった印象がある。それを裏付けるように、今年の梅雨明けは史上最速だったとニュースで語られていた。既に6月とは思えないレベルの猛暑日が続いているが、それが逆に家に籠るキッカケにもなり、読みたい本の消化に一役買うことになった。
そんなこんなで6月に読んだ本の報告に入っていく。
13歳からの地政学 カイゾクとの地球儀航海
昨今のロシア・ウクライナ問題を機に世間から関心が寄せられている地政学本であり、タイトルの通り子どもが読んでも理解しやすいビギナー向けの一冊。帯に書かれた糸井重里さんの名前と推薦文を見て購入した。
子どもも大人も知っておきたい世界のしくみ!「地政学」がわかれば、歴史問題の本質/ニュースの裏側/国同士のかけひき…が見えてくる!高校生・中学生の兄妹と年齢不詳の男「カイゾク」との会話を通じて、「地政学」が楽しくわかりやすく学べる一冊
出典:13歳からの地政学|東洋経済STORE (https://str.toyokeizai.net/books/9784492444689)
高校1年生の兄・大樹と中学1年生の妹・杏の兄妹が、怪しい風貌のアンティークショップ店主「カイゾク」から世界のアレコレについて学ぶ、といった内容となっている。
地政学といえば、何となく小難しくて敷居が高く感じられるイメージがあるだろう。この本の魅力は、そんな小難しくて敷居の高い地政学を、登場人物である中高生2人の目線で分かりやすく学べるところにある。分かりやすいが故、如何に世界について無知だったか、また、如何にニュースを知ったかぶりで聞いていたか、そんな見たくない現実を突き付けられたような気がして、大人として情けなく思えてくる反面、大人としての危機感を喚起させる良いキッカケとなった。
そういう意味では、僕の様な知識の浅い大人に最も向いた地政学本なのではないだろうかと思う。
皆さまの生活の中で、理解しているつもりだが納得できていない、そんなよくわからない世界の仕組みがあると思う。そんな知ったかでやり通してた仕組みについて、腹落ちできるほどの分かりやすい解説が本書にはあった。今回はその1部を紹介させて頂く。
・なぜドルが世界の基軸通貨なのか?
なぜ日本円の価値基準がドルで測られているのか?その理由の1つは国の軍事力にある。
軍事力が高いということは国の強さに直結し、それだけ強い信頼を与えることができる。また、その強さで価値を受け入れさせることもできる。アメリカは、その強大な軍事力を維持するために毎年10兆円以上の費用を投じており、その大きな軍事力によって世界を見張るため、各地へ軍艦を派遣している。ではなぜ軍艦なのか?それは、世界で行われている貿易の9割以上が海を通っていることが理由にある。
つまり、アメリカは世界の海に軍を展開することで世界の貿易や揉め事を仕切っており、その大きな強さと信頼性がドルの価値を裏付けているのである。
・なぜ日本人のほとんどが英語を喋れないのか?
どうして日本人は英語は疎か、他国語を話すことが出来ないのか?答えは簡単、話す必要が無いからだ。
他国語を話せるかどうかは国の豊かさに関係し、人口が多く、GDPが高いほど、他国の言葉を話す必要がなくなってくる。日本は人口が1億人を超える上にGDP世界3位と、他国から見ても豊かな国だと言える。そのため、日本で生産した商品は国内で消費されることが多く、国内での商売なので他国の言葉を使う必要がない。これこそが日本人が他国語に関心を持てない理由であり、苦労して覚えようとしない原因なのである。
逆に、貧しい国や人口が少ない国は、他国へ向けて商売する必要があり、必然的に他国語を使わざるを得なくなる。その際、最も使われる言語こそ、先ほど説明した強国アメリカの公用語「英語」なのである。
以上の仕組みを理解すると、第二言語として英語を採用している国の事情も分かってくるし、ある国の某音楽グループがやたらと他国で売り込んでいる理由もなんとなく分かってくる。
他にも中国やロシア、アフリカといった国々の事情が会話仕立てで語られており、無知な僕でも世界情勢をなんとなく理解できる。地政学とは言わず、世界の仕組みについて興味を持った人は、是非軽い気持ちで本書を読んでみることをオススメする。
écriture 新人作家・杉浦李奈の推論
表紙とサイズ感がラノベを彷彿とさせる装丁ではあるが、その実、かなりマニアックなネタ満載のミステリー小説『écriture 新人作家・杉浦李奈の推論』。ミステリー系ということもあり、なるべくネタバレをしない程度に感想を述べる。
ラノベ作家の杉浦李奈は、新進気鋭の小説家・岩崎翔吾との雑誌対談に出席。テーマの「芥川龍之介と太宰治」について互いに意見を交わした。この企画がきっかけとなり、次作の帯に岩崎からの推薦文をもらえることになった李奈だったが、新作発表直前、岩崎の小説に盗作疑惑が持ち上がり、この件は白紙に。そればかりか、盗作騒動に端を発した、不可解な事件に巻き込まれていく・・・・・・。真相は一体? 出版界を巡る文学ミステリ!
出典:『écriture 新人作家・杉浦李奈の推論』裏表紙
出版業界の裏側、小説家の作品制作事情のほか、新人作家の抱える苦労がリアルに描かれている。また、太宰治や芥川龍之介など著名な作家だけではなく、彼らの手掛けた作品のネタが至る所で取り上げられている。これらのネタのどれもが非常にマニアックで、それ故に、出版関係に興味を持つ人や純文学を愛する人など、好きな人は堪らなく感じるだろう。
しかし、それらはあくまでもさり気なく語られており、ネタを知らない人でも何となく理解出来る程度に物語の中へ溶け込み、尚且つサスペンス作品としての大事なギミックとして上手く機能している。この辺りの題材と仕掛けの組み合わせがとても秀逸で、ネタの9割以上を知らない僕でも楽しんで読むことができた。
特に、序盤で語られた「マズローの欲求五階層説」による芥川・太宰の作家的心情を分析する件はとても印象的で、マズローは疎か、文豪たちのことを知らない僕でも納得させられた。また、執筆作業における大御所作家の語る本音「飛ばし飛ばしで書く」と、対談で岩崎の語る建前「最初から一気に書く」について、現場の臭いを感じるほどに生々しく描かれている。このベテラン作家の神秘じみたものと人間性の乖離が、ミステリー小説としての仕掛けに上手く作用している。
これらの要素により、僕は最後まで飽きることなく読み進めることが出来たのである。
題材と仕掛けの秀逸さに劣らず登場キャラクターも素晴らしく、とりわけ主人公・杉浦李奈はとても魅力的なキャラクターとして描かれている。
彼女は小説投稿サイト経由でデビューした23歳の新人ライトミステリー作家で、過去3作の小説を出版した経歴を持つ。が、どれも飛び抜けて売れている訳でもなく、ネット上では「Z級ラノベ作家」と揶揄される程度に鳴かず飛ばずであった。性格も内気で、どこか幸の薄い雰囲気の彼女は、岩崎翔吾の盗作事件を通して驚くほどに成長していき、終盤の出立ちは見違えるほどに逞しく思える。また、盗作事件のノンフィクション小説の依頼を断れないとろがなんとも可哀想であるが、仕事と真実の究明のために内気な自分を奮い立たせる姿がなんとも健気で、読んでいて応援したくなるような、そんな好感の持てるキャラクターに仕上がっている。
李奈の持つ魅力と成長過程も、本作の面白さの1つなのではないだろうか。
調べたところ、本作の続編は既に何冊か出版されている様だ。しかもかなり早いペースで最新作が作られている。本作読了後の翌日には既に2巻を購入ている状態なので、これからも長く楽しんでいく作品にしたいと思う。
蜘蛛の糸・トロッコ
文豪・芥川龍之介著作の純文学作品。『ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論』の影響を受けて読んでみた。今回は『蜘蛛の糸』『トロッコ』についての感想を簡単ではあるが述べさせて頂く。
・蜘蛛の糸
この物語の教訓は「自身の利益のみを追い求めると、いずれ好機を失い身を滅ぼす」ではないかと思う。
お釈迦様の神秘さと人間の醜悪さ、極楽と地獄、善行と悪行。これらの対比によって、誰しもに秘められた醜い人間性を我々に喚起させている。しかし、過去に行った小さな善行を認めてもらえたりと、人間の全てを悪として訴えている訳ではなく、僅かではあるが救いも提示してくれている。
短い小説の中にあらゆる要素が内包されており、教訓としてではなく考察の対象として現在でも語られ続けているのだろう。
・トロッコ
主人公・良平の好奇心旺盛な少年らしさと、変化する感情といった心理描写が、短い物語にも関わらずとても細やかに表現されていた。特に、嬉々として押していたトロッコが家から遠く離れた事に気付き、一変して不安に駆られソワソワし出すところが秀逸だった。これは、かつて少年だった頃の僕も同じような思いをした事があり、遠くに住む友達の家へ遊びに行った時や、隣町のゲーセンへ自転車で訪れた時など、幾度となく不安に襲われたことがあった。そんな思い出を想起させるほど繊細な心理表現が描かれていた。
いずれの作品も短く、短時間でサッと読み終えられる作品ばかりだったので、今後も他の作品も読んでみるのも面白いと思った。
Kindleならば著者の他作品が無料で読む事ができる作品なので、これから読んでみたい人は是非とも読んでみて頂きたい。
そんなわけで国旗つくっちゃいました!図鑑
児童書コーナーで息子向けの絵本を探していたところにこの本を発見。今問題となっているロシアやウクライナを始めとした国々について、手っ取り早くかつ分かりやすく学べそうだったので読んでみることに。
先ず、国旗に用いられている「色」についてだが、それぞれの色には国や国民に対する願いや思いが込められている場合が多い。その色の持つ意味は国によって異なっており、例えば赤の場合、日本国旗に使われている赤は太陽を意味しているが、中国国旗に使われている赤は革命を意味している。また、フランス国旗の赤は友愛を、カナダ国旗の左右の赤は太平洋と大西洋を意味している。赤色1色であっても国によって解釈が様々であり、その土地の文化や民族性の片鱗を知ることが出来る。
そのほかにも、国の信仰する宗教がそのまま国旗に反映される場合もある。例えば、イスラム教を示す色は緑、ヒンドゥー教はサフラン色、チベット仏教を進行する国はオレンジ色を国旗に用いていたりする。また、キリスト教の信仰を表す形として白い十字架を用いた国も存在している。このように、国家の象徴として掲げることで、その国の信仰する教えを表しているのである。
まだまだ興味深いデザインの国旗が多く掲載されているので、子どもが大きく成長した折には、改めて本書を読み直し、国旗の面白さを教えてあげたいと思う。
まとめ
今月は地理関係の本とシリーズ物の小説に手を出してみたが、中でも直感で選んだ『écriture』はかなりの良書だった。今までミステリー小説を読んでみようと思わなかったし、楽しみ切れる気がしなかったのだが、『écriture』を通して僕の中で新たな扉が開けたように思う。
時には思い切って直感で本を買ってみるのも悪くないのかもしれない。今月はそんな気持ちになれた1ヶ月だった。
以上、ありがとうございました。
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