加藤シゲアキ=著『オルタネート』
読みました。
偉く男前で若い作家先生だなーと思いwikiで調べてみたところ、なるほど顔が良いのも納得な経歴。
奇しくも読み終えたタイミングと某芸能事務所が燃え上がっている時期が被ってしまった訳だが、これは一体何の因果なのか。
何にせよ、読み終えた後に著者の情報を知れたのは良かったと思った。
もし変なバイアスが掛かっていたならば、恐らく今感じている様な清々しい感動を得ることは叶わなかっただろう。食材にソーセージが出なくて本当によかった。
そんな加藤シゲアキさんの著書『オルタネート』のご紹介を僕の感想を交えつつ以下にまとめてみる。
※以下、若干のネタバレを含みます
作品概要
作名 | オルタネート |
3行紹介 | ・現代の東京にある円明学園高校が主な舞台 ・学生限定マッチングアプリ「オルタネート」が必須 ・少年少女3人の青春群像劇を描く小説作品 |
発刊 | 単行本:2020年11月19日(小説新潮1月号〜9月号連載) →新潮文庫:2023年6月26日 |
発行元 | 新潮社 |
著者 | 加藤シゲアキ |
表紙 | 久野遥子 |
受賞歴 | 第42回吉川英治文学新人賞 受賞 第164回直木三十五賞候補 第8回高校生直木賞 大賞 ダ・ヴィンチ[BOOK OF THE YFAR]小説部門 第1位 2021年度本屋大賞 第8位 (順不同) |
「オルタネート」とは
高校生限定のSNSアプリ。個人の認証が必要で、利用条件は高校の入学式から卒業式までと定められている。お互いが〈フロウ〉を送り合うことで〈コネクト〉となり、メンバー同士の直接のやり取りが可能となる。また、ユーザーが指定した条件に合わせて相性のいい人間をレコメンドする機能、ブログを投稿できるSNS機能を持ち合わせ、高校生必須の人気アプリとして確固たる地位を築いている。
出典:加藤シゲアキ『オルタネート』新潮社公式サイト(https://www.shinchosha.co.jp/alternate)
・高校入学→卒業まで利用可能
・学生間による高精度なマッチング機能
・ユーザー間、コミュニティ間でのコミュニケーション機能
・ブログ機能
・他SNSとの連携機能
・外部遺伝子解析サービスとの連携による新マッチング機能「ジーンマッチ」
主要人物紹介
新見 蓉 (にいみ いるる)
円明学園高校3年女子。実家は両親が営む和食屋「新見屋」で、父・母と3人で暮らす。
所属している調理部では部長を務める。
調理部の活動は調理実習だけではなく、運動部への差し入れの準備などもあり、傍で調理部顧問の笹川先生が兼務する園芸部の活動も手伝う。
調理部3年女子・恵未と園芸部唯一の部員3年男子・ダイキとは友人の関係。
また、調理部は昨年、一昨年前には全国生配信される料理コンテスト「ワンポーション」への出場経験もある。
「ワンポーション」への出場は2人1組である必要があり、昨年度コンテスト時に2年生の蓉は当時部長であった多賀 澪とエントリーする。
順調に勝ち進んで行ったものの、決勝戦では惜しくも優勝を逃す結果となる。
その時、審査員から下された厳しい言葉と周囲からの言葉がトラウマとなりオルタネートをやめてしまった。
そうして3年となった蓉はもう一度「ワンポーション」に出場するためパートナーを探しに燃える。
そんな時、調理部1年女子・山桐えみくの作るイチジクのレシピと、個性的なプレゼンテーションを目にする。
蓉は独自性と発想力を重んじる「ワンポーション」に必要な人材として、彼女をパートナー候補として選ぶのであった。
一方、蓉は昨年度「ワンポーション」覇者である永生第一高校3年男子・三浦 栄司と対面する。
その出会いを機に、2人は惹かれ合うことになるが・・・。
伴 凪津 (ばん なづ)
円明学園高校1年女子。母子家庭で育ち、奨学金を利用し入学した外部生。
高校入学以降オルタネートにどっぷりハマりオルタネートを信奉する。今では学内でも特にオルタネートに詳しい人物として、アプリ未登録の1年生からも頼られる存在となる。
凪津は、オルタネートに与えたパーソナライズデータと全ユーザーから寄せられたビッグデータによる完璧な運命の相手との出会いを望んでいる。
そのため、他外部SNSはもちろん、自身のあらゆる情報をオルタネートに集積させ、インターセクション検索の相性割合の高い相手を探していた。
ある日、オルタネートに、外部の遺伝子解析サービス「Gen innovation」と連携した新たなマッチング機能「ジーンマッチ」が実装される情報を得る。
凪津は早速外部サービスをダウンロードし、検査キットで遺伝子検体を「Gen innovation,Inc」へ送る。
後日、凪津の元に解析された遺伝子情報が送られた。
「Gen innovation」をオルタネートと連携させ、「ジーンマッチ」によるマッチング検索をかける。
最も相性が良いとされる相手の名は桂田 武夢という人物だった。その相性割合は92.2%。
軒並み80%割る数値のその他人物たちと比べても、桂田との相性は圧倒的に良いとされる結果だった。
凪津は熟考の末、思い切って桂田へ〈フロウ〉を送り、後日会う約束を取り付ける。
しかし、実際に会った桂田は自身が思い描いていた人物とは程遠い人物であった・・・。
楤丘 尚志 (たらおか なおし)
大阪の高校を中退した男子。母親には先立たれており、父親は尚志と弟を祖母に預け出稼ぎに出ている。
小学1年の頃、偶然立ち寄ったバー「ボニート」のまさおさんからドラムを教わり、以降、尚志はドラムに興味を持つ。
小学3年の時、「ボニート」でともに演奏していた同級生のギタリスト・安部 豊とバンドを組み、よくコピーしていたバンド「前夜」を、お互いにリスペクトしている。
しかし小学5年の時、豊は親の都合で東京へ転校してしまう。
やがて高校生となり、高校を中退した尚志。
年子弟がオルタネートを始めたことで、かつての友人である豊が円明学園高校に通っていることを知る。
しかし、尚志は高校を中退したことでオルタネートを利用できないため、豊とコンタクトが取れないでいた。
豊ともう一度バンドを組みたい尚志は、単身東京へ上京し円明学園高校内部へ潜入する。
ノープランで潜入した尚志だったが、偶然にも学園生徒のパイプオルガン奏者・冴山 深羽と出会い、目的の豊との再会も果たすのであった。
その後、改めて東京で会った豊からギターを辞め学業に専念している旨を聞かされる。
諦めきれないまま大阪で目標のない生活を続ける尚志は、気を紛らわすため住み込みのバイトを始める。
その後、バイト先で出会った青年・憲一のツテで、東京に在るミューシジャン限定シェアハウス「自鳴琴荘」へ入居。
尚志は3度目の上京を果たす。
奇しくも以前潜入した円明円明学園高校の近郊に住むことになった尚志。
そこで、偶然にもチャペルでオルガンを弾いていた冴山 深羽と再会するのだった・・・。
感想
学生のみが利用を許された「オルタネート」。
マッチングアプリとして使ってヨシ。友人・グループ間の連絡手段として使ってヨシ。その他情報収集に使ってもヨシ。
その良いところ取りっぷりはさながらアプリの海鮮丼ではあるが、これこそが憧れの超便利神ツール。
そんな「もしも」がリアルな質感を伴い、我々と似た環境の下で形となる。学生たちの解像度の高い生活描写は、本来異質である架空アプリの違和感を更に薄らげ、空気のようにわからなくさせる。ありもしなかった学生時代の理想が形となったような。そんな謎の感動が脳を駆け巡る。あの時、こんなSNSがあれば・・・と、妄想せずにはいられない。
地元から離れた高校に1人進学したあの時も気の合う友人と巡り会えたのかも知れない、とか。もしかしたら30過ぎた今でも関係が続いていたのかも、とか。
・・・まあ、そもそもスマホのスの字も存在しない時代にマッチングアプリなんて存在しようもないんだけれども。でもこんなアプリを使える学生生活を送りたかった。
この本を読んでいると、自身の学生生活の記憶はもちろん、これまで流行ってきた(流行っている)SNSとの記憶も想起されてくる。
僕が学生時代といえばガラケー全盛期だったわけだが、その時から既に「mixi」なるSNSは存在していた。ボッチコミュ障な僕には当然縁遠い代物で、一度登録したはいいが誰とも繋がることなく利用しなくなった記憶は、現在でも黒歴史として脳裏に刻まれている。
その後、「Facebook」が日本で大流行したことで、これまで「mixi」を使ってた陽キャたちはこぞって鞍替えを始める。「mixi」でダメなら「Facebook」で成功する筈もないと理解していた僕は、そもそも登録すらせず遠くから静観していた。友人から知らされる「Facebook」に上げられた同級生の近況を聞きながら、1人生まれたばかりの匿名掲示板を眺めていた。
そんなとき現れたのが、現在「X」と名称が変わったかつての「Twitter」だった。「mixi」や「Facebook」と違い実名である必要がないのが何よりも僕に向いていた。程なくしてアカウントを使った僕は、今と変わらないノリで「Twitter」を利用。
・・・と、そんなことを思い出す。
なのでもし学生時代にオルタネートしてたとしても、やはり僕は使えなかっただろう。ちょっとこの本僕に厳しいぞ。
さて、本作は高校生の青春群像劇であり、当然現代の価値観と近しい若者たちが読むほうが共感できて楽しめる作品なのだろう。
転じて、僕のように学生時代が遠い過去となった壮年世代には共感し難い作品なのだろう。
と、思っていたけど全くそんなことない。
むしろ世代が遠いほど、現代の若者が持つ未知の価値観に触れられる喜びと楽しみは大きいのではないだろうか。
かつて、誰しも、傷つきながらも今しかない感性で、今しかない何かに打ち込んでいた。遠い過去となってしまった10代の「今」。泥臭さと血の匂い。汗と青春。それは、蓉・凪津・尚志たち現代を生きる若者の中にも、確かにあった。
のだと思う。
そして現代を生きる若い世代ほど、「オルタネート」のある理想的な世界観により没入できるのだろう。
恐らく僕よりも彼らの思い浮かべる情景の方が鮮明で、より生々しい質感の世界が広がっていることだろう。
僕はどちらかと言えば、主人公たちと同じ若い世代の時にこの作品を読みたかったと思う。
もちろん、同世代ならではの感動を得たい気持ちもある。しかしそれ以上に、読書が苦手だった学生の僕にこそ『オルタネート』は必要だったと思った。
なんと言ってもこの『オルタネート』はかなり読み易い。
細かい章立てで適度に読み進める。登場人物は多いが人間関係がゴチャついてないし、何よりどの人物もキャラが立っていて認識し易い。架空のアプリ・オルタネートもよく馴染んでいるから世界観に矛盾もない。恋愛感情を抱く過程も無理がないなど、心情がごく自然に描写されている。
群像劇仕立てなのもよかった。
同じ世界感で、それぞれの視点からそれぞれの物語が描かれている。普通なら後半で人物や物語が1つに収束するところを、本作はあくまでもそれぞれの目標・目的に向かって進んでゆく。複雑そうに思えて、実は人間関係のゴチャつきが少なくてとても読み易い。
それぞれの短編が一つにまとまっている様な一作だ。
そして、何より難しい用語や単語が少ない。いちいち単語をググって調べる手間が少ないのはそれだけで時短に繋がる。
・・・とまあ、以上が本作が読み易い理由である。
『オルタネート』の読み易さならば、活字の苦手だった僕でもどうにか読み切ることができただろう。そして読了時の快感と読書の楽しさを知るキッカケになり得ただろう。
となると、この『オルタネート』は「普段読書をしない高校生」にこそ読んでほしい一冊と言えるのではないだろうか。
娯楽と情報が溢れる昨今。遊びに学業に、とにかく若者には時間がない。
そんな彼等(彼女等)が手に取る最初の一冊となることを願いつつ、僕はこの自分語り感想文を締めるとする。
以上、ありがとうございました。
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