また伊坂幸太郎作品である。いい加減「迷ったらとりあえず伊坂」の思考をどうにかしたいと思いつつも、選書に失敗するリスクはできるだけ負いたくない。未知の作家やジャンルに挑戦できない自分が悔しい。でも推し作家の作品だから抗えない・・・。
以下は推し作家作品『逆ソクラテス』の感想とか。
本書は小学生たちを主人公とした5編の短編集となっている。著者としても子供をメインに据えた作品は本書表題の『逆ソクラテス』が初めての試みらしく、その旨が巻末インタビューにて執筆時の苦心とともに語られている。表題作以前に出版された『マリアビートル』にも一部子供の視点が描かれてはいたが、どうやらあの悪魔的な少年は例外中の例外だったのだろう。ともすれば児童書のような極端に子供へ迎合した作品なのではないか、という懸念を本書購入前から抱いていた。ところが実際に読んでみると全くそんなこともない。むしろ子どもたちの純粋で奔放さが遊び心のある著者の文体とよく合っている。小学生らしいシンプルな言葉が真っ直ぐに心に刺さる。そして気持ちの良い伏線回収と、穏やかで清々しい終幕。頭を抱えながら執筆したとは思えない完成具合に、プロの持つ本物の作家力(ぢから)を見た。
感想はなんといっても「子供のころに読んでおきたかった」の一言に尽きる。他人からの決めつけに対する気の持ち方やら、大人や苦手な同級生への向き合い方やら、正直であることの尊さやら、全部小学生時代の自分にこそ必要だった。出来ることなら本書を持って過去へ行きたい。いや、当時漫画の文字すらまともに読まなかったガキの僕が小説なんて読むはずがない。だったら僕が直接過去の自分に教えてやらなければならない。おいそこのコロコロコミックを持っているガキ!黙っておじさんの話を聞け!・・・・・・そう考えずにはいられない。
そういった具合に、本作は様々な気づきを与えてくれる。必要な時代に必要が考えを得られなかったのは、確かに残念で仕方ない。しかし本書から得られる気づきは子供だけのものではない。例えば表題作における先入観がそうだ。自分は息子に対して無意識下の偏見を抱いているのではないか。ゴーレム効果による良くない影響を与えているのではないか。4編目の『アンスポーツマンライク』もそうだ。子供に対して感情的に怒鳴る大人と、怒鳴る大人に呆れる人たち。果たして自分はどっち側の人間だろうか。良き大人でいられているのだろうか。読んでいて身につまされる思いになる。もし本書に出会うのが数10年遅かったならば、今度は自分が説教を受ける番になっていたことだろう。曲がりなりにも一児の父となった今『逆ソクラテス』に出会えたことを、僕は幸運に思う。
因みに僕の好きな場面は4編目『アンスポーツマンライク』序盤の試合場面です。対戦よろしくお願いします。
◯書籍情報
作名・『逆ソクラテス』
著者・伊坂幸太郎
販売元・株式会社集英社
発売日・2023年6月20日
価格・720円(税別)
形態・文庫本
判型・A6判
ページ数・336
ISBN・9784087717044
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