蒼川なな=著『合コンに行ったら女がいなかった話』
X(旧Twitter)の広告を見て全巻購入、即一気読みしてきた。
人は誰しも自分だけの性的嗜好=癖を持つ。
一口に癖といっても千差万別。人の容姿が多様であるように、或いは味に好みがあるように、性の嗜好性も人の数だけ存在する。
そんな一個性とも呼ぶべき癖にも、ふとしたキッカケで反応してしまう未自覚の癖と、キッカケが刺激となり新たに開拓される癖が存在する。新コスチュームや新イベントの追加実装を機に初めて認知したサービス開始時から存在するソシャゲキャラみたいなアレだ。
多様性が重んじられる現代において、人は他者の性的嗜好は勿論、性的指向や性自認に対して寛容であることは人間として美徳とされている。しかし一方で、自身が自認していない性的嗜好=癖が衝撃的なものだったらば・・・。
本作はそんな意外な癖と戸惑いを描く。
〜あらすじ〜
男子大学生の常盤は同じゼミの女子・蘇芳から合コンに誘われる。初めての合コンに期待を膨らませる常盤と、その友人の浅葱と萩。そんな3人を待っていたのは美形の男子3人組だった。
狼狽する常盤たちに美形男子の1人が話しかける。なんと待っていた美形男子は皆男装をした女性であり、1人は常盤を誘った蘇芳本人であった。蘇芳と同じく男装の女性・琥珀と藤の3人は、普段「男装バー」でバイトしており、今回の合コンはバイト後そのままの服装でやって来たとの事。
思っていた合コンと違う光景に困惑する男子たち。余裕の表情に花びらと光を纏う男装女子たち。
斯して男子3人×男装女子3人による異色の合コンが始まった・・・。
本作は男装女子一点特化型の作品となっており、三者三様の男装女子と男装に耐性のない男たちカップリングを描いたイロモノラブコメ漫画となっている。
複数のキャラで属性や癖を詰め込んだラブコメ作品はもはや漫画のみならず多方のメディアで幾度となく見かける。しかしながら海よりも広大な人癖のなかからここまで「男装女子」に舵を切る作品は今までに見かけたことがない。著者の強い思いと癖、そして同じ癖を持つ読者の愛によって本作は続いているのだろう。その尖りっぷりと一点を極める執念は「噛道」ジャック・ハンマーを彷彿とさせる。
先ほどから「男装女子」を“イロモノ”だの“尖り”だのと揶揄してはいるが、僕自身そこまで奇異な目を向けている訳ではない。X(旧Twitter)の広告で本作品を初めて見た時は流石にぶっ飛んでいるとは思った。だが試しに1巻読んでみると、気づけばその日に全巻(最新は5巻)購入即読了するくらいどハマりした。「男装女子」の癖についても今ではすんなりと受け入れられるくらいだ。
確かに嗜好性としてはかなり特殊ではある。しかしながらラブコメ作品としても問題なく読める仕上がりの漫画でもある。例えば、女性からのイケメンムーブに脳を破壊される王様ゲームイベントだったり、やっぱり男性物の浴衣を着てくる夏祭りイベントだったりなど、コメディ漫画としての落ちはしっかりと付いている。
また、1つの癖に特化しているだけはあり、男装時→通常時のギャップだったり、男装時に見せる女性らしさだったりなどなど、「男装女子」ならではのギミックが随所にに伏せられている。それらのギミックは、男装女子を知らない者が読んだ場合でも(よっぽどの苦手意識がない限りは)男装女子ソムリエが何故その癖を好いたのか理解できる。
冒頭で述べた通り、そもそも人の性的嗜好=癖とは千差万別・多種多様なもの。
自身が「普通」と認識している癖も他者から見れば「異常」な場合もあるし、その逆もだってあり得る。こと癖の多様さにおいては人間の内面や外見に留まらない。人間に限らず動物・植物といった多種族に向けた嗜好だけではなく、2次創作由来の人外や現象、更には倫理・道徳の観念から外れた行為などなど、その多様さはあまりにも膨大で、あまりにも果てしない。
そう考えると「男装女子」が尖っているか否かなんてのは些末な問題に思えてくる。民族や性別の多様性が重んじられる現代にこそ、癖の多様さと許容する心が必要なのかもしれない。
前述した通り、本作はラブコメ作品として読んでも十分に楽しめる漫画作品となっており、未知の男装界隈を知るための最初の一冊として手に取りやすく、なにより後学のためにもなる。ただし、僕のようにうっかり新たな癖を開拓してしまう可能性が非常に高いのである程度の覚悟は必要だ。
因みに僕は男装時と通常時のギャップによる高低差で足を骨折した。
合コンに行ったら女がいなかった話(1) (ガンガンコミックスONLINE)
待って待って、なんでイケメン達が合コンに!!?
大学生のトキワは同じゼミのスオウさんに誘われて、3対3の合コンをすることに。そして当日、待ち合わせの居酒屋に行くと待ち構えていたのではキラキラのイケメン達で…。
Amazon.co.jp より
以上、ありがとうございました。
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