『世界でいちばん透きとおった物語』の感想

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杉井光=著『世界でいちばん透きとおった物語』を読んだ。

方々のメディアで大絶賛を受けていた本作。余りに人気なためか持病の逆張りが発動してしまい、4月の発売から4ヶ月が経とうとする最近まで徹底スルーの姿勢を貫いていた。
で、病気も落ち着いてきたこのタイミングで遂に『透きとお』ることと相成った。『透きとお』り後の今となっては意味もなく逆張りしてた事を深く後悔している。

以下、ネタバレ厳禁な作品らしいのでそれなりに配慮しながら感想をまとめてみる。

Bitly

あらすじ

大御所ミステリ作家の宮内彰吾が死去した。宮内は妻帯者ながら多くの女性と交際し、そのうちの一人と子供までつくっていた。それが僕だ。「親父が『世界でいちばん透きとおった物語』という小説を死ぬ間際に書いていたらしい。何か知らないか」宮内の長男からの連絡をきっかけに始まった遺稿探し。編集者の霧子さんの助言をもとに調べるのだが――。予測不能の結末が待つ、衝撃の物語。

出典:杉井光『世界でいちばん透きとおった物語』|新潮社(https://www.shinchosha.co.jp/book/180262/)
『世界でいちばん透きとおった物語』 杉井光 | 新潮社
大御所ミステリ作家の宮内彰吾が死去した。宮内は妻帯者ながら多くの女性と交際し、そのうちの一人と子供ま...

感想

評判通りの素晴らしい作品だった。終盤に明らかになるネタバレ厳禁な仕掛けには鳥肌モノの衝撃を受けた。これは確かに電子書籍で出せない。

ページ数があとがきを加えて235ページと、物足りなさを感じない程度に程よくまとまっている。章立てと全13章とコンパクトで読みやすい。「父の遺稿探し」という明確で分かりやすいプロットでありなが、展開は最後の最後まで予測ができない。読み進めてゆくテンポと没入感が心地よく、一気読みしても全く疲れを感じない。

あとは何といってもネタバレ厳禁な仕掛けが素晴らしい。物語中のトリックかと思いきや、本書そのものにも仕掛けられているという衝撃の事実。仕掛けと伏線が示す『世界でいちばん透きとおった物語』の意味。そして、誰もがページをめぐり戻してたしかめたくなる仕掛けと、最後の「     」のメッセージ・・・。
これほど素敵な読書体験をさせてくれた本書へ向け、僕も同じ言葉を贈りたい。



・・・・・・これではあまりにも抽象的過ぎるので内容に触れた感想も少々。

この物語は、主人公が、産まれて間もなく絶縁状態で生前大物小説家だった父の遺作を探す・・・という大筋で展開される。
冒頭で既に母が亡くなっており、一応腹違いの兄が登場するが人格が最低過ぎるため実質的に天涯孤独な状態から物語が始まる。人生ハードモードにもほどがある。
そんな主人公が、依頼されたからとはいえ、遺作探しの道中で顔も合わせたこともなかった父に触れ、自身のルーツを知り、亡き両親の想いの想いを知る。
これは、そんな親と子の物語。

実をいうと、僕は幼い時に父が他界した都合で片親の子として育ってきた過去を持つ。そのためか、彼ほど特殊な環境ではないにせよ、少なからず主人公に対して共感の念を抱いていたりする。やはり母に対する想いは特別で、勝手に脳内で母のことを美化してしまうし、母のことをなじられると腹が立つ。主人公が母親に向ける優しさと思いやりは、少ないページながらも深く大きなものと感じられた。
ちなみにうちの母は存命だし、実家で長男と元気に暮らしている。

一方で、父親の方にも少なからず近しいものを感じてたりもする。共感といっても1人の親だという1点のみだが。当然ながら僕は彼のように立派な作家先生というわけでもないし愛人を方々で作って回れるほどの技量も度胸もない。
それでも、彼が秘めていた親としての生き方には大いに考えさせられるものがあった。例えば「何を遺せるか」とか「何を伝えられるか」といった親としての役割のようなもので、金や土地といった形の残るやつではなく、技術とか考え方といった所謂memeというやつ。こんなの普段は絶対に考えないけれど、タヒぬ前には考えておけと言われてるような。そういったリアルを突きつけられた。

やはり、どうせタヒぬのならタヒんだ後になって恨まれごとを言われたくもないし、借金とかで遺族に負担を掛けたくはない。それに、どうせならいい意味で驚かせられる物を遺したい。

まあ今そんなことを考えても仕方がないけど。
とりあえず生命保険には入っておこうと思う。

まとめ

多くの読者から支持されているのも納得な良作だった。

サッと読めるし、その上内容も面白い。何よりネタバレ厳禁な仕掛けが本当によく作り込まれている。やはり逆張りしてないで早く読んでおけばよかった。

どんなに遅くても1週間もあれば読めるだろうし、この夏、暇を持て余している人もそうでない人も、試しに手に取ってみてはどうだろうか。

それでは以上、ありがとうございました。

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