オーディブル版『ハヤブサ消防団』の感想

書籍
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池井戸潤=著『ハヤブサ消防団』
オーディブルで聴きました。

好評発売中!池井戸 潤『ハヤブサ消防団』集英社
池井戸 潤、最新作はまさかの“田園”ミステリー!?のどかな集落で連続する謎の事件。田園の裏に隠された...

ええ、キーボードの打ち間違えとかではないです。読んだのではなく、聞いたんです。あのAmazonさんが提供する新感覚読書体験型サービス「Audible(オーディブル)」を利用して。

「オーディブル」紹介記事の作成に当たり、サービスの質を確認する目的で選んだのが『ハヤブサ消防団』であった。読んでみようにもそこそこ値の張る準新作単行本が月額1,500円で飲み放題なのが「オーディブル」の良いところだ。サービス試用期間中であることに感謝し、ありがたく本書『ハヤブサ消防団』を堪能させて頂いた。

そんな訳で、本書の簡単な紹介と雑な感想を以下にまとめる。

『ハヤブサ消防団』の紹介

物語は、美しく豊かな自然広がる架空の町・八百万町ハヤブサ地区を舞台に、都会から移住したばかりの小説家・美馬太郎と町民たちとの素朴な営みが繰り広げられる。そんな田舎町も一皮剥けば都会と変わらない闇が蠢いていた。立て続けに発生する謎の放火事件。滝壺で発見された死体となった町民。かつて茶畑だった場所に広がる無機質なソーラーパネルとその業者。そして、かつての名家が残した怨念に、静かに迫る新興宗教の影・・・。自分たちの町は自分たちで守る。その心を胸に、太郎たちハヤブサ消防団メンバーは町に潜む底知れぬ闇に挑む。

大体こんな感じの作品となっている。

池井戸潤さんの作品といえば、『半沢直樹』や『下町ロケット』のような企業戦士の奮闘を描く作品が有名だが、本書『ハヤブサ消防団』はまさかのミステリー小説となる。しかも結構本格的ときた。

地方が舞台ということもあり、閉鎖された町に住む人々の温かさと冷たさの表現は丁寧で、非常に繊細に描かれている。距離感が近く、気心の知れた人同士の営みには、どこか懐かしさを感じさせてくれる。一方でミステリー要素も強く、隣人でさえも不審に思えてくるような人物表現に不気味さを禁じ得ない。

一面に広がる田園と軽トラのエンジン音を想起させるその情景描写は、まさに「田園ミステリー」の呼び名に相応しい。

『ハヤブサ消防団』の感想

田舎町ののどかさと先の読めない緊迫感が同居した素晴らしい作品だった。

誰が何のために行った犯行なのか全く読めない展開は、ついつい所要再生時間15時間51分を忘れてしまうほどだ。ミステリーとはいっても複雑すぎるトリックもないし、難しい専門用語もあまり出てこないこともあり、ただ聞くだけなのにすんなりと内容が頭に入ってくる。町で起こる事件がテーマなだけあってか比較的登場人物が多い本作ではあるが、別段誰が誰なのか迷うこともない。登場人物と内面描写の多い長編小説だったに関わらずここまでの没入感を生むことが出来たのはナレーターである杉山玲央氏の手腕によるものに他ならない。

前半は主人公・美馬太郎が移り住んだ町・ハヤブサ地区に溶け込んでいくまでの過程と、入団した消防団として1人として町のために奔走する姿が描かれる。田舎独自の文化と生活様式に苦戦しつつも、少しずつハヤブサの町に馴染んでゆく。周りの住人は皆優しく、人々の持つ暖かさを太郎を通して実感できる。そんな太郎が消防団へ入隊して直ぐの事、連続放火事件との関係が疑われる火災事件と、行方不明となった住民の変死体が滝壺の底で発生する。のどかで暖かな町の雰囲気とは裏腹に、どの事件からも隠しきれない悪意の冷たさがにじみ出ている。

中盤ではまた連続火災が発生する。太郎ら消防団メンバーが犯人の捜索を進める内、近頃町内で乱立されているソーラーパネルと火災事件との因果関係が浮き彫りとなる。そして、ソーラーパネル業者を捜索するなかで浮かんできたのは、かつて巷をざわつかせた新興宗教「オルビス・テラエ騎士団」の名だった。次々と浮かび上がる疑わしき容疑者と、人を介して伝播する事件の噂話。閉鎖された田舎町にゆっくりと恐怖が迫り来る。

後半では、隠された真実が少しづつ明らかになってくる。そしてその代償と言わんばかりに、更なる悲劇が町を襲いかかる。町に潜む教団信者が誰なのか。教団とソーラーパネル業者の目的は何なのか。ロレーヌの十字架と山原家の家紋。放火事件も実行犯。隋明寺と教団との関係。全てが繋がった時、意外な結末で幕を下ろす。

なんといっても静かな田舎町が徐々に侵食されていく様が恐ろしい。噂話の伝わる速度やら疑わしき住民との距離感やら、地方民が取りそうな挙動を完璧に描写されていており、ある意味でそこも怖い。最後の最後まで犯人が誰なのか掴めない事もあり、いよいよ登場する住民全てが怪しく思えてくる。現実問題で隣人が疑わしくなったとして、はたして僕は正気でいられるだろうか。そう思うと不安な思いが込み上げてくる。

先の読めない展開。悍ましい人間の闇。そして最後に全てが繋がるカタルシス。本書は紛れもなく本格的ミステリー小説だ。

まとめ

今回はオーディブル版『ハヤブサ消防団』の紹介と感想を雑にまとめてみた。

音声による読書は初めてではあったが、まさかここまで没入感を得られるものだとは思わなかった。ここまでプロの朗読が凄いとは思わなかった。月額1500円の元を十分に回収出来たし大満足だ。

読書が苦手で隙間時間を確保出来そうな方は、是非ともオーディブルを活用して『ハヤブサ消防団』を聞いてみて欲しい。

ハヤブサ消防団  Audible版

東京から父の郷里・ハヤブサ地区に移住した売れない作家の三馬太郎。 田舎暮らしを楽しむはずが、地元の消防団入りした彼を待ち受けていたのは連続放火事件だった。 息もつかせぬ展開の、池井戸潤まさかの“田園”ミステリ!?

Amazon.co.jp より

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