オーディブル版『ブラックボックス』の感想

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またオーディブルで一冊聴いてきたのでご紹介。

今回聴いた作品は、砂川文次=著『ブラックボックス』だ。

この作品、第166回芥川賞を受賞しており、同年直木賞の『黒牢城』と『塞王の楯』に並ぶ2022年の大注目ビックタイトルの1冊である。書店で見かけた本書はそこそこの厚みだったので挑戦してみようと思っていたが、遂には今の今まで読むまでに至らなかった。こんな作品こそ、オーディブルで気軽に聴くのには相応しい。

そんな訳で、本書の感想を以下にざっくりまとめてみた。

『ブラックボックス』のあらすじ

コロナウイルス渦巻く東京。28歳の青年・サクマは自転車便(メッセンジャー)として日々、荷物を手に街を駆け抜けていた。
サクマは、湧き上がる感情をコントロール出来ず、怒りを爆発させては、その度に何度も問題を起こしていた。それ故、これまで勤め先に就いては辞めを繰り返し、現在も非正規労働者としていくつもの職を転々としている。
ある時、同居人・円佳の妊娠が発覚。これ機に、これからは“ちゃんとしよう”と思い直す。が、簡単には思うようにならず、安定した職に就こうとするも、結局は今までと変わらない非正規雇用のフードデリバリーであった。

「もっとちゃんとしなきゃな」

そんな折、サクマ前に税務署からやって来た2人の男が現れるが・・・。

『ブラックボックス』の感想

この小説の感想を率直に述べると、とにかく暗い。
陰鬱過ぎて気分がげんなりしてくるレベルで暗い。

本作は、コロナ禍を生きるメッセンジャー・サクマの苦悩と葛藤の生活を描いた作品となっている。
エンタメなんてものは欠片も存在せず、そこにあるのは、只々リアル過ぎる現代人の営みのみである。娯楽性とか飾りっけの無い、純粋に今を日本を生きる男のありのままを表現した作品だ。
こんなにも純粋すぎる作品のことを純文学というのだろう。

この作品、正直リアル過ぎて怖い。
舞台設定がコロナウイルス大流行中の日本というのもあるが、なんと言っても人物描写のリアルさが半端ない。

特に、主人公のサクマという青年がリアル過ぎる。というより、今を生きる若者そのものだ。
異常なまでにキレやすく、政治や自身の将来に無関心で、無勉強で生活が場当たり的と、いかにも現代人らしい暗い要素をこれでもかというくらい秘めている。自転車便やフードデリバリーを営む非正規労働者である点も、如何にもコロナ禍の現代人らしい。
また、他人との付き合い方があまりにも不器用なためか、長く同じ職に就けないのも異常に生々しい。それでいて、自分は誰よりも「まとも」だと思っていたりもする。
そんな彼が輝かしい未来を歩んで行く物語ならまだ良かったが、本作にはそのような大衆的娯楽作品ではない。サクマは苦悩に喘ぎもがくも、しっかりと堕ちるところまで堕ちる。そして、堕ちても尚、彼の人生は止まらない。

そんな、ある意味で人間味の溢れるサクマの内面に対し、どこかしら共感できる点はないだろうか。
例えば、怒りの沸点が低くなる場面があったり、難しい言葉を理解しようとすると気力が沸かなかったりなど、なにかしら自身と似ているところがあるのではないだろうか。
僕も、スプラトゥーンをプレイしている時とかで、サクマのように怒りを抑えられなくなる時がある。作中のように、同僚が口にする陰口に対して不快感を覚える時もある。

サクマだけが特別異常な人間というわけでもない。
誰だってサクマの様な内面を抱えているし、誰だってサクマの様な結末を迎える可能性がある。
それこそが、本作から感じる不安と恐怖の正体であり、本作の伝えたいメッセージなのかもしれない。

後は、もう、やたらと自転車の描写が細かい。
メッセンジャーが主人公ということもあってか、自転車で疾走する場面やら整備する場面やら、とにかくマニアックに描写されている。僕は特に自転車について特別な思い入れがある訳でもなく、3年前気まぐれで買ったクロスバイクをずっと駐輪場の置物にしている程度に自転車に無頓着だ。当然専門的な知識を持ち合わせている訳でも無く、ケイデンスとかいう単語をアニメ『弱虫ペダル』で聞きかじった程度のにわか知識しか持ち合わせていない。
そんな僕でも、この作品の自転車描写が凄いのは分かる。どこの何が凄いか、と聞かれれば返答に困ってしまうが、何となく凄いってことは分かる。

多分、自転車好きが本書を読めば、うんうん頷きながら読むに違いない。

まとめ

今回は『ブラックボックス』(オーディブル版)の感想をまとめてみた。

総評としては
「雰囲気暗いけど教訓の詰まった社会の教本」
とまとめさせてもらう。

誰しもがサクマの様に悩み、苦しむ時があるし、誰しもがサクマの様に堕ちる可能性がある。器用に生きられない彼の生き様に、受け入れることの大切さを見つけた。

令和の世を生きる現代人のリアルを見たい方は、是非とも↓のリンクからご視聴頂きたい。

ブラックボックス  Audible版

第166回芥川賞受賞作。
ずっと遠くに行きたかった。
今も行きたいと思っている。
自分の中の怒りの暴発を、なぜ止められないのだろう。
自衛隊を辞め、いまは自転車メッセンジャーの仕事に就いているサクマは、都内を今日もひた走る。
昼間走る街並みやそこかしこにあるであろう倉庫やオフィス、夜の生活の営み、どれもこれもが明け透けに見えているようで見えない。張りぼての向こう側に広がっているかもしれない実相に触れることはできない。(本書より)
気鋭の実力派作家、新境地の傑作。

Amazon.co.jp より

以上、ありがとうございました。

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