ロマンと遊び心を乗せたバトン『創作する遺伝子 僕が愛したMEMEたち』レビュー

書籍
スポンサーリンク

小島秀夫=著『創作する遺伝子 僕が愛したMEMEたち』を読んだ。

早速いつものようにざっくりと感想をまとめてみる。

MEMEとは、小島秀夫とは

MEME(ミーム)
それは、動物行動学者でもあり進化生物学者でもあるリチャード・ドーキンス氏が著書『利己的な遺伝子』で作り出した言葉で。Wikipediaには「脳内に保存され、他の脳へ複製可能な情報」と記されている。遺伝子による遺伝とは違い、模倣によって人から人へ文化を伝える概念。と、僕は解釈しているがなんのこっちゃわからない。
ネット上では、とりわけ海外におけるMEMEは面白画像やネタ画像全般を指す場合が多く、日本でもMEMEの文字を見ればそう解釈する者も多いだろう。そもそも定義が曖昧なのだからどれが本当の意味なのかなんて僕にはわからない。

MEMEという言葉を意識する様になったのはいつからなのか考えた時、先ず最初に浮かんで来るのが、ゲーム「メタルギアソリッド」である。
リアルで美しいグラフィックも然る事ながら、その前衛的で革新的なゲーム性、遊び心溢れる演出は余りにも凄まじく、当時小学生だった僕は一気に「メタルギア」のファンとなってしまった。また、メタルギアシリーズが訴えかけるメッセージがとにかく深く、2作目「メタルギアソリッド2」のラスボス撃破後にスネークの語る「俺達は伝えなければならない」の件は本当に深い。後にあれこそがMEME、つまり文化による継承なのだと理解する。大袈裟かも知れないが、僕にとって「メタルギア」はただの娯楽だけではなく、人として何たるかを学ぶ教科書でもあった。
そんな人としての教科書を作り上げたクリエイターこそ、今回取り上げる『創作する遺伝子 僕が愛したMEMEたち』の著者でもあり、「メタルギア」「デス・ストランディング」の生みの親である小島秀夫監督である。

Home | Kojima Productions

本書に秘められた力

前置きが大変長くなってしまったが、そろそろ本書の内容について触れていく。

本書の内容を簡単に説明すれば「名ゲームクリエイター小島監督“自身”を作りあげてきた本・映像・音楽の数々を紹介した本」である。

小説・映画に造詣が深いことで知られる小島秀夫監督。Twitterでは度々映画や小説関連のツイートをしており、個人的に今後読む(観る)作品の情報収集手段として活用させてもらってたりする。ツイートの影響力も大きく、昨年流行ったアニメ「リコリス・リコイル」について触れたツイートはファンに大きな衝撃を与えたほどだ。その後、程なくしてノベライズされた同作の帯に小島監督のコメントが添えられることになる。監督が業界に与える影響力は途轍もないものなのだと再認識させられた一幕であった。

そんな監督が取り上げる作品達はどれほどのものなのか。
そう、当然ライト層の僕が見ても全くピンとこない作品ばかりだ。観たことのある映画はほんの一部。小説に至っては全てが知らない作品だ。それでも、それぞれの作品がどういった作品で、監督自身にどう影響を与え、どの様にゲームに反映されているかは何となく分かる。

作品による影響が顕著に見られる作品がある。それが、ボール・ギャリコ=著・古川安二郎=訳『ジェニィ』である。
作中でタイトルと同名の雌猫・ジェニィは、猫になってしまった少年・ピーターに猫として生きる術を教える。元人間は猫としての歩き方もしらないし、猫としての戦い方も知らない。ピーターにとって師匠でもあり、母親のような存在となる。そんな野良猫ジェニィの魂は小島監督へと受け継がれて行き、その精神とキャラ象は後に発売される「メタルギアソリッド3」のTHE・BOSSへと受け継がれる。小説内でピジェニィが伝えた生き方はピーターを通じて小島監督へ受け継がれ、小島監督の精神はTHE・BOSSが伝える。国に裏切り者の汚名を着せられた彼女は「自分に忠を尽くす」と言う。THE・BOSSの意識(SENSE)は我々プレイヤーに受け継がれる。これこそ文化による継承だ。『創作する遺伝子』を読む前に既に小島監督からMEMEを継承していたのだ。小島監督のクリエイターとしての凄さに震えてしまう。

レビュー本としても優秀

他にも影響を与えた作品エピソードは満載ではあるが、単純に作品のレビューとして参考になる要素も大きい。むしろ、僕のように最近になるまで小説に触れてこなかった者にとっては参考資料としての有用性は大きい。

ここで僕の気になった作品たちを(備忘録代わりに)以下に列挙してみる。

・花車 渡辺みゆき=著
・漂流教室 楳図かずお=著
・漂流 吉村昭=著
・ジェニィ ボール・ギャリコ=著・古川安二郎=訳
・2001年宇宙の旅 スタンリー・キューブリック=監督 (順序不同)

中でも『2001年宇宙の旅』はAmazonプライムビデオで視聴可能な内に是非見ておきたい。
本書にも「是非観て貰いたいと願う」とある。

まとめ

小島監督が受け継いだ「MEME」と魅力的な作品、そして小島監督のパーソナルな情報の数々がこの1冊に詰まっていた。
なんと2013年発刊の原本『僕が愛したMEMEたち いま必要なのは、人にエネルギーを与える物語』から3章と4章が削られているらしい。小島監督の知識と情報量は一体どうなっているんだ。

ともあれ、本書のおかげで僕自身がブログを通して感想を発信する意義を新たに見つけられた気がする。僕が本から得た情報を発信することは、MEMEを記事を通して誰かに受け継がせることになる。誰かの意思を僕が受け継ぎ、その意思を僕から誰かに受け継ぐ。MEMEは人と人で繋がり、やがて長い糸(ストランド)になる。
これこそ小島監督の目指すものなのかも知れない。少なくとも、これこそが僕が目指したいものだ。

僕にはクリエイターのようなセンスはない。それでも僕が得た感動を伝えることに意義があるならば、可能な限りそれを続けていきたい。
そう思わせてくれる1冊だった。

創作する遺伝子 僕が愛したMEMEたち (新潮文庫)

「メタルギアソリッド」を生んだ天才ゲームクリエイターが
己の創作衝動を焚きつける愛すべき小説、音楽、そして映画について語る。
新作「DEATH STRANDING」の秘話、
音楽家など様々な分野で活躍する星野源氏との対談も掲載。

Amazon.co.jp より

コメント