オーディブル版『汝、星のごとく』の感想

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凪良ゆう=著『汝、星のごとく』。オーディブルで聴き終えた。

今年一番アツい本といえば、2023年本屋大賞受賞作品であるこの『汝、星のごとく』において他にないだろう。書店のポップ、ネットのレビュー、どっちを向いても示し合わせたように好評なこの一冊。こんなのがハズレな訳がない。とはいえ今更単行本を買って読むのも何かで癪に触るの。

なので根がズボラな僕はサクッとオーディオブックで済ませることにした。残業後の晩飯をカップラーメンで済ませるようなノリで読書を楽しめるのがオーディブルの強みだ。

そんなモチベーションで聴いた『汝、星のごとく』の感想をざっとまとめてみる。

尚、本編のネタバレを多分に含んだ感想となっているのでご注意いただきたい。

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オーディブル版の所感

朗読は柚木尚子氏と志村倫生氏の2人体制となっており、それぞれ井上暁海の項を柚木氏、青埜櫂の項を志村氏が担当。項ごとに主人公の視点が切り替わる作風に合った構成となっている。音声が付くにより、それぞれの人物の心情がより鮮明に表現されていたように感じた。

聴き取り具合については概ね良好。再生速度は1.15倍までならながら作業でも問題なく聞き取ることができた。

親たちが「ヤバい」

この作品のあらましを僕なりに述べならば
「毒親に振り回されて育つ男女2人が惹かれ合い・すれ違い、周りの価値観と自身が置かれた境遇に苦しみながら、それでも自分らしく生きようとする者だちの恋愛物語」
である。
惹かれ合った2人がすれ違い、困難の末再び巡り合ってゆく恋愛模様は引き込まれてゆくものがあった。確かに本作は評判通りの素晴らしい作品だった。
だったのだけれど、妻と子と生活を共にしている身としては、複雑な感情を抱かずにはいられない。

なんといっても今作に登場する「親」がヤバい(1名を除く)。自分の親とこれまでの生活に感謝の念を覚えるほどにヤバい。特に主人公2人の家庭は序盤からとにかく終わってる。

瀬戸内海の島で産まれ育った主人公・暁海(あきみ)の場合、父は不倫相手の元から帰ってこず、不倫の事実を受け入れられず精神が病んだ母と2人で暮らす。その後、不倫相手の家に火を放ったり、暁海の貯金を詐欺紛いの怪しい高額商品に溶かしたりなどをする。

漫画家志望のもう1人の主人公・櫂(かい)の場合、男ができると何もかもを放り捨てて恋愛に走る母と2人で暮らしており、実の父には逃げられている。母は新しい男ができるとまた何もかも放り捨ててしまい、家業スナックの業務すらも櫂に押しつけ男のもとに行こうとする。

どちらの家庭も、親が毒親であり、子どもたちはそれぞれの親に振り回されている状態だ。一見するとどちらの母も異常な精神性に思えなくもないが、見方によっては父親の身勝手さが家庭を崩壊させている様にも見える。如何なる理由があるにせよ、残された家族のことを考えると居た堪れない思いになる。確かにこれなら母が狂っても仕方がない。

そういっても僕も聖人ではない。億が一にも間違いを起こさない為にも、本書に登場する家族を反面教師として励んでいきたいと思う。

ジェンダーフリーに向けての訴え

LGBTQ法案の推進やジェンダーレストイレの設置など、世間は昔と比べて性的マイノリティに対して寛容になってきたように見える。しかしそれは世間一般のことであって、どれだけ政府や団体が当事者たちに寄り添おうとも、必ずどこかで否定的な意見が現れる。
人によって問題に対する考えが違うように、人の数だけ価値観は存在する。

『汝、星のごとく』にも、世の固定化された価値観に悩む者が登場する。

主人公の暁海も価値観に悩む者の1人であり、職場や恋人、夫婦間で求められる「女性として」の在り方に度々苦悩している。家族間で起きたとある事件を機に考えを改めた暁海は、男や他人に頼らない強い女性であろうと心に決めることになる。

もう1人の主人公である櫂の漫画仲間・直人も価値観に悩む者の1人だ。彼の場合、恋人である男性の家族とトラブルが発生したことを機に、世間から大きなバッシングを浴びることとなる。一連の炎上事件によってノリに乗っていた連載漫画は打ち切られ、販売されていた単行本は全て絶版となる。作画担当だった直人はショックによりその後、最後まで筆を持つことはなかった。

結局のところ、マイノリティな人間が損するようになっているものなのか。多様性とはなんだったのか。誰かが他人の価値観に寛容だったとしても、他の誰かが許容できるとは限らない。一人一人が多様な価値観とどの様に向き合っていかなければならないのか。考えずにはいられない。

まとめ

一応感想をまとめると

  • 朗読者2人体制が作風とピッタリ
  • 毒親たちから学ぶ親としての在り方
  • 多様な価値観との向き合い方について考える

波に同じ形がない様に、価値観と恋愛も人によって形が違う。
どの様にして生きるか。誰と添い遂げるか。自分らしく生きるためにはどう在るべきか考えさせられる。そんな1冊だった。

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、星のごとく Audible版 – 完全版 

その愛は、あまりにも切ない。 正しさに縛られ、愛に呪われ、それでもわたしたちは生きていく。 本屋大賞受賞作『流浪の月』著者の、心の奥深くに響く最高傑作。 ーーわたしは愛する男のために人生を誤りたい。 風光明媚な瀬戸内の島に育った高校生の暁海(あきみ)と、自由奔放な母の恋愛に振り回され島に転校してきた櫂(かい)。 ともに心に孤独と欠落を抱えた二人は、惹かれ合い、すれ違い、そして成長していく。 生きることの自由さと不自由さを描き続けてきた著者が紡ぐ、ひとつではない愛の物語。 ーーまともな人間なんてものは幻想だ。俺たちは自らを生きるしかない。

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以上、ありがとうございました。

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